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酔っ払い

店の扉が開いた瞬間、空気が少しだけ変わった。 帽子を深く被ったままの仁都が、周囲を見回しながらこちらへ歩いてくる。 「あ、本物だ」 柴田が仁都をじっと見つめる。 「俺がイケメンすぎて見惚れました?」 「いや、どちらかというと一之瀬さんの方がタイプです」 一瞬だけ、空気が止まる。 仁都は数秒だまった後、ゆっくりと澪の方を見た。 「なんだ、この男」 低い声だが、口元は無理やり笑っている。 対して澪は、露骨に嫌そうな顔をしていた。 「面倒な空気作るのやめてもらえますか」 「俺は事実を言ったまでです」 そう言って、柴田は楽しそうに肩を揺らす。 その間にも仁都の視線は、澪を捉えている。 「澪」 「なに」 「隣いっていい?」 聞きながら、既に隣を確保しようとしている。 澪は無言で立ち上がると、そのまま柴田側へ移動しようとしていた。 「まてまてまて」 仁都が慌てて腕を掴む。 「俺の隣でいいっしょ」 「誰のとなりも無理」 「ならそっち行かなくてもいいじゃん」 「お前よりマシかと」 そのまま引き止めるように、腕を掴まれ結局隣へと座らされる。 一方、柴田はテーブルへ肘をつきながら面白そうに笑っていた。 料理も酒も追加される頃には、テーブルの空気はすっかり崩れていた。 最初こそ距離を保っていた仁都も、気付けばいちばん騒がしい。 「柴田ちゃんだっけ?俺と澪の出会い聞きたい?」 「柴田さん、な。飲みすぎだ」 柴田が笑いながらグラスを傾ける。 「一之瀬さんいいですよ。楽しいですし」 「すみません」 完全に出来上がってしまっている仁都は、帽子も途中で外し、だらしなく体を預けている。 そのうちテーブルの上へ、放り出されていた仁とのスマホが激しく震える。 画面に表示された名前を見て「あ」と気まずそうな顔をした。 澪はその反応に、眉を寄せる。 「うるさい。出ろ」 仕方なく仁都が通話を取ると、スピーカー越しに低い声が響いた。 『お前今どこだ』 「ひーみつ」 『俺にGPS付けられたこと忘れたか?』 その瞬間、澪と柴田の視線が同時に仁都へ向く。 「GPS?」 柴田が面白そうに目を細めた。 仁都は露骨に視線を逸らす。 『逃げ回るからつけると言ったはずだ』 「ストーカーだー」 『貴様、ぶっ殺すぞ。今から行く。そこ動くな』 通話が切れると同時に、数秒の沈黙。 そして柴田が、耐えきれないように吹き出した。 「アイドルって大変ですね」 一方、澪は柴田へと視線を向けていた。 「柴田さんって意外とよく笑うんですね」 澪の言葉に「だから営業してるんですよ」と返す柴田とは反対に、仁都はそのやり取りに拗ねているような顔を見せていた。

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