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ゾクゾク

店の外へ出る頃には、夜風が少し冷たくなっていた。 酔った仁都は、澪の腕へ体重を預けるようにしながら歩いている。 「重い」 「澪がちゃんと支えないからでしょ〜」 「野垂れ死ね」 そんなやり取りをしていると、店前へ一台の黒い車が止まった。 運転席のドアが開く。 現れた男を見た瞬間、澪の表情がわずかに冷える。 男は酔った仁都を見るなり、深く息を吐いた。 「お前ほんとなにしてんだ」 「迎えありがと〜」 呑気に笑う仁都とは対照的に、男の視線は真っ直ぐ澪へ向く。 その空気に柴田が、少しだけ眉を動かした。 「……またお前か。何度言ったらわかる?」 低い声に澪は一切、表情を変えない。 「お前の監督不行届だろ」 「……あ?」 空気が一瞬で張り詰める。 仁都だけが状況を理解していないように、体重を預けたまま小さく笑っている。 男の視線は鋭く、澪を射抜いていた。 「こいつをどうしたいんだ」 男の言葉に、澪は鋭い視線を向けた。 「……さっさとこいつ連れてけ」 男は小さく舌打ちをし、仁都を強制的に澪から離そうとする。 それに動じることもせず、むしろ澪の腕へしがみつくように寄りかかった。 澪は、深く眉間に皺を寄せる。 「……ほんと鬱陶しい」 低く吐き捨てた瞬間だった。 澪は仁都の髪を乱暴に掴み、そのまま無理やり顔を上げさせる。 「いっ……」 仁都の目がわずかに揺れる。 「あんま俺にベタベタくっつくな」 冷えきった声。 「ほんとに殺すぞ」 背筋を撫でるような異様な圧。 「一之瀬さん」 柴田の声が、少し強張る。 だが、反応はない。 髪を掴んだまま、鋭い視線を落とし続けている。 「おい、やりすぎだ」 男の声も一切届かない。 そのうち、柴田が慌てて澪の腕をとった。 「一之瀬さん送りますよ。帰りましょう」 その声でようやく視線が動く。 数秒遅れて掴んでいた、髪から手が離れる。 仁都は乱れた前髪の隙間から、じっと澪を見上げていた。 恐怖など一切なかった。 「ねえ、澪」 澪の背へ呼びかける。 視線は向かないままだが、足が止まる。 仁都は乱れた前髪をかきあげながら、小さく笑った。 「ゾクゾクするから食わせてよ」 数秒の沈黙が流れる。 その場の空気は完全に凍りついていた。 柴田は目を見開き、男は露骨に顔を顰めた。 澪はゆっくり振り返ると、完全に冷えきった視線を向けた。 「きも」 低く吐き捨てても尚、楽しそうに笑っていた。 それ以上、何も言わなかった。 「そろそろ帰りましょう」 柴田に促されるように、背を向ける。 仁都も、男に腕を引かれながら最後まで楽しそうに澪を見つめていた。

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