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昔2
氷がグラスの中で小さく音を立てる。
運ばれてきた酒を一口だけ口に含むと、懐かしい味が口の中へ広がった。
「で、なに」
グラスを揺らしながら、男へと視線を向ける。
男はすぐには答えなかった。
琥珀色の液体を見つめたまま、一度だけ氷を鳴らした。
BARには静かな音楽が流れている。
他愛もない会話をしている客の声は聞こえるのに、この席だけは妙に静かだ。
やがて男が息を吐く。
「お前と仁都の関係は知らんが、一応あいつはアイドルだ。面倒なことに巻き込むなよ」
グラスの氷が、小さくなる。
酒を一口、口に含ませゆっくり視線を向けた。
「なんの関係もない。面倒なことになることもない。安心しろ」
そう言うと、男は深く息を吐く。
「……そういう所だ。あまり人を振り回すな」
理解ができない返事に眉を寄せる。
「なら俺から完全に突き放せばいい。お前の監督不行届だと言っただろ」
「……全く。お前ってやつは」
男は額を押さえると、澪のネクタイを乱暴に引き寄せる。
吐息がかかるほどの距離にも全く動じない。
「お前こういう事されるのむかつくだろ」
澪は静かに瞼を伏せ、小さく笑うと頬杖をつきながら冷たい視線を男へと向けた。
「……ああ、殺したい気分だな」
その言葉に、男が手を離すと勢いを失ったネクタイが胸元へ落ちる。
「……っ」
男はグラスを手に取ると、小さく息を吐く。
「……相変わらず狂ってんな」
その言葉に鼻で笑って返すと、ポケットから煙草を取り出し、一本咥えた。
ライターを取り出す前に、顎を少し上げる。
「火」
その短い言葉に、男は眉をわずかに動かした。
「自分でつけろ」
「だるい」
昔と変わらないやり取りに、男は呆れたように息を吐くと咥えていた煙草の火を、澪へ近付ける。
それに応えるように、少しだけ身を乗り出した。
煙草の先同士が触れ、ジワジワと火が移る。
吐息が混じるほどの距離なのに、互いの表情は変わらない。
火がついたのを確認すると、澪はゆっくりと煙を吸い込んだ。
男も身体を離すと、同じように煙を吐き出す。
「……俺が仁都に殺される」
「関係ない」
淡々とした言葉に、男は呆れたように笑った。
「そういうとこだぞ」
灰皿へ灰を落とすと、男の視線は澪へと向いた。
それに返事はない。
グラスに手を伸ばすと、琥珀色の液体が静かに揺れる。
「しるか」
それにまた呆れた表情を見せると、男は立ち上がり伝票を手に取った。
「奢る」
「お前が誘ったしな」
「……」
深く息をついた男の背中を追うように視線を送る。
歩く姿も、煙草を持つ癖も、変わったようで変わっていない。
男がふと振り返ると、澪は目を伏せるように小さく微笑む。
「またな」
その何気ない一言に男は一瞬、目を細める。
「ああ」
短く返して、そのまま店を後にした。
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