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家、来なよ

「だめなの」 「お前煙草吸わんだろ」 「これから吸う」 真顔でそう返され、数秒見つめるが何も返す言葉が見つからず、受け流した。 こちらの事ばかりで、自分のことを話さない仁都に、そろそろ苛立ってきたところだった。 煙草を灰皿へ押し付けると、鋭い視線を向ける。 「え、なんか怒ってる?」 脳天気な声に、片手で頬を支えながらじっと見つめた。 「人のことばっかだな」 低い声に、目を瞬かせると「ああ」と納得した声が返ってくる。 「ニュースね」 その軽い反応が余計に腹立たしい。 「気になるの」 グラスを揺らしながら、こちらの反応をまるで楽しんでいるみたいに笑っている。 「ああ」 想像していたものとは違う反応に、仁都の動きが思わず止まった。 からかうような笑みも一瞬消える。 「仕事に影響が出る」 ぽつりと呟いた言葉を仁都は聞き逃さない。 その言葉を確かめるように繰り返した後、グラスの縁を指でなぞった。 「期待していいのそれ」 静かな声だった。 「しても無駄」 迷いのない返事に「そっか」とだけ返すその顔はどこか寂しそうに見えた。 しばらくして口をゆっくり開く。 「あれ妹だから」 ふいに飛んできた声に思わず「は?」と零す。 すると、店内に響くほどの笑い声。 「仕事、集中できそ?」 見透かされているような言葉に、視線だけを返す。 軽く受け流すと、首を傾げながら「ん?」ともう一度、尋ねてくる。 それもまた逃げるように受け流し、煙草を咥えた。 ライターの火が小さく揺れる。 紫煙を吐き出しながら窓の外へと視線を向けた。 「無視された」 「そうだな」 「認めるんだ」 呆れたように笑う声。 それが妙に心地いいと思ったのは酒のせいだろうか。 いい感じにアルコールが回っているせいで、会話はどんどん進んでいった。 気付けば時間は、思った以上に過ぎていた。 「そろそろ帰る」 最後の一口を、流し込もうとグラスへ手を伸ばす。 「電車もうないよ」 何気ない声に、眉を寄せた。 スマホを弄りながら画面をこちらへ向ける。 「ほら」 確認すると、最終電車は数分前に出ていた。 「この辺にホテルは」 「今からなんて無理だろうね。田舎じゃあるまいし」 思わず沈黙する。 〝一時間だけ〟が、気付けばこんな時間だった。 「どうする?」 「タクシー」 即答するも、片手で頬を支えながら首を傾げると楽しそうにこちらを見つめる。 「今からじゃほとんど捕まらない」 「待つ」 「大人しく家来なよ」 あまりにも自然な口調だった。 むしろこれを狙っていたみたいに。 店内の賑やかな音だけ耳に残る。 選択肢はない、と言わんばかりに無言で仁都の視線は澪を捉えていた。

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