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だめ?
玄関の扉が閉まる。
その音だけが妙に大きく響いた。
「適当に座ってて」
靴を脱ぎながら仁都が振り返る。
澪は返事をせず、部屋の中へ視線を巡らせた。
思っていたより生活感がある。
ソファの端には脱ぎっぱなしの服。
ローテーブルには読みかけらしい雑誌が数冊。
テレビの横にはゲーム機まで置かれていた。
「部屋汚い」
ぽつりと零す。
「じゃあ澪が部屋綺麗にしに来てくれる?」
悪びれもなく言う。
澪は部屋をもう一度見回した。
どれも目につく。
「まずゴミを捨てろ」
「だるい」
「しらん」
即答すると、仁都は肩を揺らして笑った。
そのまま部屋の奥へ消えていく。
冷蔵庫でも開けているのか、ガサガサと物音が聞こえた。
澪はソファへ腰を下ろす。
柔らかなクッションが身体を受け止める。
思っていたより酒が回っていた。
背もたれへ深く身体を預けると、小さく息が漏れた。
しばらくして冷たいペットボトルが、目の前へ差し出される。
「はい、水」
見上げれば、仁都が立っていた。
受け取ったペットボトルの表面には細かな水滴が浮いている。
蓋を開け、一口流し込むと火照った喉に冷たさが落ちていった。
「生き返った?」
からかうような声。
澪はボトルを持ったまま視線だけを向ける。
その目つきに、楽しそうに笑っている。
相変わらず鬱陶しい。
それなのに騒がしいはずの部屋は、不思議と居心地が悪くなかった。
そのまま向かいへ座るかと思ったが、回り込むようにソファの横へ来ると、当然のように隣へ腰を下ろした。
クッションが僅かに沈む。
肩が触れるほどではない。
けれど、ひとりで座るには十分な広さがあるソファだった。
澪はゆっくりと視線を向ける。
「なんでそこ」
いつもなら突き放すようなことも、今はアルコールのせいか続かなかった。
追い払うのも面倒で、そのままペットボトルへ口をつける。
仁都はそんな澪を横目で眺めながら、ゆっくり背もたれへ身体を預けた。
しばらく静かな時間が流れる。
エアコンの音だけが微かに響く中、不意に仁都が口を開いた。
「今すごい襲いたい気分なんだけど、どう?」
澪の動きが止まる。
ペットボトルの蓋を閉める音だけが、小さく響いた。
「調子乗んな」
低く落ちた声に怯むどころか、楽しそうに口元を緩める。
「だめ?」
澪は答えない。
代わりに煙草を咥えようとして、空の箱しか出てこなかった。
小さく舌打ちを落とす。
その横で肩を震わせながら笑っている。
「まだ酔ってんね」
その声だけが妙に近い。
澪は視線も向けず、ソファへ深く身体を沈めた。
「全く」
この空間に響く、隣から聞こえる笑い声がやけに心地よかった。
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