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鈍感

テレビでは深夜のバラエティ番組が流れていた。 内容はほとんど頭に入ってこない。 ソファへ深く身体を沈めたまま、澪はぼんやりと画面を眺めていた。 隣では仁都がスマホを弄っている。 相変わらず落ち着きがない。 その時、着信音が鳴る。 仁都が画面を見るなり、小さく「あ」と声を漏らした。 「ごめん」と通話ボタンを押す。 「もしもーし」 聞こえてきたのは女性の声だった。 どこか聞き覚えがある。 テレビや雑誌で見た事のある若手女優だった。 『やっと出た』 「ごめんごめん」 『今日も無視されるかと思った』 「そんなことないよー」 軽い口調に悪びれた様子もない。 澪は煙草を咥えながらテレビヘ視線を戻した。 別に興味はない。 そう思っていた。 『ねえ、今度ご飯いこ』 「いいよ」 即答だった。 ライターを持つ手が止まる。 『ほんと?』 「うん」 『二人でだよ』 「え?うん?」 電話越しでもわかる。 声が少しだけ弾んでいた。 仁都は全く言っていいほど気付いていない。 テレビを見ながら適当に相槌を打っている。 『仁都くんってほんと鈍い』 「よく言われる」 楽しそうな笑い声。 その空気に、澪は小さく煙を吐き出した。 なぜか煙草の味が悪い気がする。 『彼女とか作らないの?』 「気が向いたらね」 あっさりした返事に、女優は少し黙ったあと小さく笑った。 『じゃあわたしまだチャンスあるね』 仁都は少し考えるように首を傾げた。 「チャンス?」 『私が立候補したらって意味』 「言ってる意味がわかんないや」 『そういう所だよ』 その瞬間、澪のこめかみがぴくりと動いた。 さっきから聞いていれば、遠回しな行為も、わかりやすい誘いも、全部受け流しているくせに本人だけがなにも気付いていない。 酒のせいだろうか。 カチッと、ライターの蓋が思ったより大きな音を立てる。 仁都が「ん?」と振り返った。 澪は無言のまま立ち上がると、仁都の手からスマホをひったくる。 「え?」 間の抜けた声。 そのまま通話口へ向かって淡々と言った。 「こいつ今使えない」 『え?だれ。ちょ――』 返事を聞く前に通話を終了する。 仁都はぽかんとした顔で澪を見上げる。 「え、なになに」 その言葉に、スマホを胸元へ抱えたまま睨み返した。 「お前はバカか」 「なにが――」 「鈍感野郎」 吐き捨てるようにそう言って、澪は再びソファへ腰を下ろした。 仁都は瞬きを繰り返したあと、小さく首を傾げる。 「え、怒ってる?」 返ってきた声に、もう一度煙草を咥えた。 ライターを鳴らすと、小さな火が揺れる。 しばらく無言のまま煙を吐き出し、ようやく視線だけを向けた。 「気分が悪い」 問い返しはこない。 代わりにソファがわずかに沈む。 隣の気配だけが、やけに近かった。

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