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もう少し

――どう答えて欲しい 澪の声は、静かだった。 けれど、その静けさの奥にはさっきまでとは違う種類の熱が潜んでいる。 仁都は一瞬、言葉を失った。 胸の奥がわずかにざわつく。 それでも、視線だけは逸らさない。 澪を見上げたまま、ゆっくりと息を吐いた。 「嫉妬しててほしい」 その言葉がこぼれ落ちた瞬間だった。 澪の指先が微かに動く。 煙草の火が赤く明滅した。 まるでなにかを、堪えるように。 部屋の空気がじわりと、重さを増していく。 「馬鹿か」 低く吐き捨てられた声は、思ったほど冷たくなかった。 仁都は口元を緩める。 「ちがう?」 挑発するようなその一言。 それが決定打だった。 次の瞬間、澪の手が仁都の頬を掴んだ。 逃がさないと言わんばかりに。 もう片方の手は腕を押さえ込み、身体をソファへ縫い留める。 ぎしり、と鈍い音が響いた。 距離が一気に、縮まる。 互いの呼吸が混じり合いそうなほど近い。 仁都は目を見開いた。 驚いているはずなのに、不思議と抵抗する気にはなれなかった。 澪は煙草を口元から外す。 その視線がゆっくりと、仁都の唇へ落ちた。 あと少し。 ほんの僅かに身を寄せれば届く距離。 時間だけが妙に、長く引き伸ばされたようだった。 けれど、ふいに澪の表情が曇る。 我に返ったように眉を寄せ、小さく舌打ちをした。 そして、そのまま身体を離してしまう。 「……すまん」 掠れた声だけが残された。 仁都はしばらく天井を見上げたまま、動かなかった。 鼓動だけが、耳の奥でやけに大きく鳴っていた。 沈黙が続いた後、仁都は肩をわずかに震わせ小さく笑った。 「なんで辞めた」 口調は軽い。からかうようですらあった。 けれど、その声は思いのほか静かで、どこか探るような響きを帯びていた。 澪はこたえない。 煙草を咥えなおし、わずかに視線を逸らす。 吐き出された紫煙だけが、ゆっくりと天井へ溶けるように昇っていった。 「あと少しだったのに」 まるで独り言のように、仁都は続ける。 その言葉に、澪の眉が微かに動いた。 「殺すぞ」 低く沈んだ声だった。 だが、仁都は引かなかった。 ソファに深く身を預けたまま、横目で澪を見やる。 「図星かな」 返事はない。 代わりに、煙草が灰皿へ強く押し付けられた。 じ、と火の消える音が静かな部屋に響く。 「調子に乗るな」 吐き捨てるような短い言葉。 それでも仁都の口元から笑みは消えなかった。 さっきまで触れていた頬へ、そっと指先を当てる。 その仕草を目にした瞬間、澪は露骨に顔を顰めた。 「……ほんとわかりやすい」 楽しげに零されたその一言に、澪は深く息を吐いた。

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