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第8話 脱・因習!※

「凌、凌……!」 「ん、はぁ……は、ぁ……」  辰巳が出ていったあと、俺は大急ぎで凌のそばに跪いた。  汗ばんだ額に乱れた黒髪が一筋張りついているのを指先で避けてやると、凌は「あ、……っ」と溢れんばかりの色香とともにため息をこぼした。……やばい、エロすぎて股間が疼く。    こてんとこちらに顔を向けた凌が、ゆるゆると目を開ける。  そして赤く売れた果実のような唇を震わせて、俺の手首をぎゅっと掴んだ。   「結希……っ、はぁ……」  のろのろと重たげに起き上がった凌の股間に、やはり俺の視線は吸い寄せられてしまう。  恥ずかしげに股座を隠そうとしているけれど、さっき辰巳に口淫されて勃起しきった凌のそれは、バキバキに張り詰めて苦しそうだ。    ごくりと固唾を飲み、俺はそっと凌のそばに身を寄せた。   「凌、すげえつらそう。……出すの、手伝っていい?」  「は……? いや、やめろって、そんな……」 「いいから寝てろ。凌、辰巳に薬盛られたんだ」 「く、薬……?」     ぎょっとしたように凌の顔がこわばった。知らないうちに薬を飲まされたのだろう。   「一回出せばちょっと楽になると思うし。……手でするだけだから」 「ん、あ……っ」  断りを得ないまま、俺は凌の屹立を手の中に包み込んだ。  とぷりと溢れた熱い先走りと硬くそそりたつそれに触れた瞬間、手のひらが性感帯になってしまったかのようにぞくっとした。 「……うわ、かたい……」 「ゆうき、やめ……いいって、そんなことまで、」 「いいって。ほら、人にしてもらう方が気持ちよくない?」 「ァっ……はぁ……」  軽く扱くだけで、ちゅこちゅこといやらしい音がする。  抵抗の意思を失ったように凌は布団の上で脱力し、俺の手の動きに合わせて微かに腰を揺らし始めた。 「凌のこれ……すごいな、こんなにでっかくなるんだ……」 「ん、っ……はぁ……ぅ」 「しかも、すげぇかたい。……やば、すげぇエロい……」  俺は凌のとなりに寝そべって手コキを続けながら、耳元でそう囁いた。  だんだん俺も興奮してきてしまい、じんじんと股間が熱くなってきてしまう。     前だけじゃない、後ろもだ。  このうまそうなペニスで後ろを突かれたらどんな感じがするんだろう。自慰で自分のいいところはすでに開発済みとはいえ、指とコレとじゃ圧迫感が全然違うに違いない。  いつもいつも、凌を想いながらもどかしく指で慰めていた。  想像以上に逞しく聳り立つ凌のそれをリアルに目の当たりにして、俺の心臓はいつにもまして激しく拍動している。 「ぁ、ぁ……っ、いく……出そ……っ」 「いいよ。一回出して楽になろ?」 「ん、っんんっ……ァ、あ————……っ」  ぶるっと腰を震わせた凌の先端から、熱い体液が迸る。  手のひらでは受け止めきれなくて溢れ出した白濁が、ぽたぽたと凌のなめらかなふとももに滴った。  ——凌の精液……やばい、エロ……。    とろりと俺の手を汚す体液といやらしい香りに、がつんと頭をぶん殴られたような気分になった。  しかも、凌のペニスは一度放ったとは思えないほどに硬くそり返ったままだ。  ——ああ〜〜……もう、コレでぐちゃぐちゃに突かれたい。ナカにほしい……っ……!!  もはや止まるところを知らないほどに、俺は凌の色香に侵されている。  いますぐ凌の上に跨って猛々しいコレを飲み込んでしまいたいところだが、それは辰巳が凌にしようとしていたことと何ら変わらない。    何度か深呼吸を繰り返したあと、俺は凌の耳元でまた囁いた。   「凌。辰巳のやつ、捨て台詞吐いてどっか行った。ここを出よう」 「……へ? で、でも……儀式は……」 「あのさ、凌。おまえが我慢してまであいつとセックスしなきゃ成り立たない儀式なんておかしいと思う。本当にそんな言い伝えって存在すんのか?」 「……わ、わからない……。神社を継ぐまで、古文書は読ませられないって、いわれてて……」 「やっぱりな。辰巳がお前とヤリたいがために言ってただけなんだよ!」 「そんな……うそだろ……。俺が今まで、どんな気持ちで……」  凌は目を閉じて眉間に深い皺を寄せ、呻くように呟いた。  痛ましい姿だ。俺は凌の額の汗をそっと拭う。 「儀式なんて、やりたくなかったんだろ?」 「……そりゃそうだよ。いやでいやでたまらなかった。でも……龍神様がいかに大事か、両親からたくさん聞かされて育ってきた。目には見えないけど存在を信じてた。……ここを継がないことに罪悪感もある、だから、儀式くらいは……って」  重たげに起きあがろうとする凌の背中を支えてやる。  すると凌はしっとりと汗を含んだ黒髪をかきあげて、どこか物悲しげな表情で俺を見つめた。 「最後に俺で役に立てることがあるなら……やるしかないって思ってたんだ」 「うん……お前らしいよ。でも、もういいんだ」 「まさかあの人に騙されてたなんて。……はぁ……いつの間に薬まで」 「まだ、つらい?」 「う、うん……恥ずかしいけど。おさまんない」  一度出せたとはいえ、凌の身体はまだ熱いし呼吸も早い。  熱を測ろうと額に触れた瞬間、凌はビクッと身体を震わせ、「っ、ぁ……」とエロすぎるため息をつく。  そして、自嘲めいた笑みを浮かべた。 「俺……ひとりでなんとかするから。さっきは手伝ってくれてありがと……気持ち悪かったろ」 「え? いやいやいや気持ち悪いわけないから! 凌、めちゃくちゃエロくて、俺までこんな……」  温泉上がりに着ていた甚平はだぼっとしているけれど、これ以上なく興奮してしまった俺の股間は明らかに大きく膨らんでいる。  それを目にした凌の頬が真っ赤になり、バツが悪そうに目を逸らした。   「ごめん……! こんなことに巻き込んで」 「いや、いーよ。でも……もし、凌さえよければなんだけど……」 「ん……?」 「……俺と、しない?」 「へ」  凌の目が見開かれ、きょとんとした顔になる。  さっきから下半身がじんじんと疼いて仕方がなく、我慢も限界になった俺は甚兵衛の下をするりと脱ぎ捨て——凌の上に跨った。 「っ……結希」 「俺も……さっきからすげえエロい気分で、どうしようもなくってさ。よかったら、挿れてほしい、んだけど」 「そっ……そんなことして平気なのか? 無理しなくても」 「無理してない!」  思わずちょっと大きな声が出た。  口をつぐんだ凌を真正面から見つめて——俺はとうとう、ずっと堪えてきた言葉を口にした。 「俺、凌のことが好き。初めて会ったときから、ずっと好きだった」 「っ……」 「でも、おまえがゲイかどうかなんてわかんないし。勢いで告って大怪我したことあるから……冗談でも怖くて言えなくて、ずっと我慢してたんだ」 「結希……」 「だから、俺は平気。凌さえ嫌じゃなければ、俺のこと抱いてよ。……めちゃくちゃにしても、いいよ」  恥ずかしさをかなぐり捨てて凌の胸に縋ると——ぐるんと視界が回転し、気づけば俺は天井を見上げていた。  二、三秒してようやく、凌に押し倒されたのだと気づく。 「りょ、凌……?」 「そんな、煽るようなこと言わないでくれよ。我慢……、できなくなるだろ」 「我慢なんてしなくていいよ」    あえてそんなことを口にすれば、凌は少し怒ったような顔をして、火照った頬をさらに深い赤に染め上げた。  布団に横たえた俺の上に四つ這いになった凌を見上げながら自ら脚を開き、温泉で綺麗に洗い上げておいた後孔に指を添えた。 「挿れてよ、はやく。……ここ、ずっと疼いててつらいんだ」 「っ……はぁ……結希」  大きな手でむき出しの太ももを淡く撫で上げられ、思わず甘ったるい声が漏れてしまう。  凌は布団の横に置かれた赤い盆に手を伸ばし、その上に乗ったローションの瓶を荒っぽく掴んだ。  そしてそれを俺の窄まりにトロリと垂らし、なおも怒ったような顔のまま俺を見下ろす。     「……ごめん」 「ははっ、なんで謝んの? 俺、凌のこと大好きだもん。何されても泣いて喜んじゃうから」 「ごめん……ごめん結希……っ」 「ぁ、あ……っ」  ぐぷぷ……と凌のペニスが俺の中に入ってくる。  慣らすこともせずいきなり受け入れるのはかなりキツかったけど、アナニーを日常的にやっている俺のそこは、たぶん普通のひとよりもかなり柔らかいはずだ。  ——とはいえ、結構苦し……。  ぐ、ぐ、と小刻みに腰を揺らしながら、少しずつ凌の剛直が俺の中を拓いていく。  俺も浅い呼吸で圧迫感を逃しながら、凌の襟を掴んで引き寄せた。  余裕のない凌の顔がすぐそこにあり、しっとりと汗を含んだ黒髪が俺の肌をくすぐる。  その儚い感覚がくすぐったくて、そして同時にものすごくいやらしくて、俺はことわりもなく凌の唇を奪っていた。 「んっ……はぁ……結希っ……ん、」 「ごめ……、チューしちゃった……てか、ナカ狭すぎ? ……でも俺、じぶんでしょっちゅうやってて慣れてるから、もっと強引に挿れても、いいよ……」 「でも、怪我、させそうで……」 「大丈夫だよ。……ね、それより、もっとキスしていい?」 「ん……」  ふたりで絡まり合いながら、もう一度深く唇を重ねる。  凌の舌はとろけるように柔らかい上にとても熱くて、粘膜を舐め上げられるたびにゾクゾクするほど気持ちがよかった。  なかばがっつくように俺と舌を絡めながら、ぐ……ぐぐ……と深く腰を沈めてくる凌の尖った先端が、とうとう俺の好いところをごりっと掠めた。  俺を襲ったのは待ち侘びていたような甘い快楽ではなく、体の奥から電流を流されたかのような強い刺激で、目の奥がチカチカする。 「あっ……! ぁ、はぁ……ぅ……」 「っ……結希……はぁ、はぁ……っ」 「あ、あっ、ぅあ……っ!」  やがて、凌がリズミカルに腰を遣い始めた。  我慢できないといった荒々しい腰の動きで、最奥を狙うようにずんずんと激しく突き上げられる。そのたび俺の口からは、だらしのない喘ぎが溢れ出す。 「あっ、……あ、っ……あ、ん」 「結希……っ、はぁっ……ごめん、ごめん……っ」 「ん、っ……いーよ、好きに動いて……っ。俺のこと、もっと、犯して……っ」 「はぁ、っ……だからそういうこと、言うなって……っ」  凌は眉間の皺をさらに深めてそう言うと、着たままだった俺の甚平の前をするりとはだけさせた。  そして背を丸めて身を屈め、ぱちゅぱちゅと淫らな音をさせながら俺を穿ちつつ、ぷっくりと立ち上がった俺の胸の尖りにむしゃぶりつく。 「ひゃ……ぁ、あっ……!! ん、ぁん……っ」 「ごめん……俺ばっかり、気持ちよくなって……ごめん……っ」 「ぁ、うあ……っ、まって、いっしょにされたら、そんな」  敏感な乳首を熱い舌で転がされ、硬くしこった先端を舌の腹で擦り上げられ、じゅっと吸われて——ただの違和感しかなかった内壁にまで一気に快楽が伝わっていくようだった。  凌の剛直の熱さがさっきよりもよくわかる。  前立腺を擦り上げられ、内壁を余すところなく愛撫される快楽がせり上がり、俺の口からはさらに甘い喘ぎが漏れる。     「はぁ、イイ……めちゃくちゃ気持ちいい……。結希ごめん、腰、とまんない」 「ん、んっ……おれも、おれもきもちいい……っ、りょう、もっと、もっとナカ、突いて……っ」 「ほんとに? 本当に気持ちいい……?」 「うん、うんっ……! すき、きもちいい……。もっと犯して、りょう……っ!」    その言葉に煽られたのか、ピストンの止まらない凌のペニスがさらにぐっと力を増した。  凌は上半身を起こして長い黒髪をかきあげると、俺の腰を両手で掴み、さらに奥を狙うように激しく腰を振り始めた。 「あ! ァっ……ぁ、あん、はぁ……ンっ!」 「……気持ちよさそうな顔、すげぇ可愛い。……結希、かわいい……っ」  まさかエッチしながら褒めてもらえるとは思わなくて、嬉しさのあまり中がきゅんきゅんと締まってしまう。  すると凌は「っ……は……締めすぎ」と小さく呻き、ふたたび俺の上に覆い被さって、ばちゅ、ばちゅと深いグラインドで俺を攻め立てた。 「ん、ん……イっちゃう、いっちゃいそ……っ」 「はぁ……おれも、イきそ……。抜かないと」 「だめ! おれんなかでイって、りょう、中に出してよ……っ」 「ちょっ……! んっ……ぅあ…………」  中で達してしまいそうになった瞬間、凌の腰に両足を巻きつける。するとその刹那、びゅるる……と熱いものが腹の奥で弾けたのがわかった気がした。  びく、びくっと腰を震わせていた凌が脱力し、俺の上に倒れ込む。  その愛おしい重みをしっかりと抱きしめながら、俺は激しく乱れた呼吸をゆっくりと整えた。 「はぁ……はぁ……は……」 「凌……。好きだよ、好き……大好きだ……」 「ん……」  肘で上半身を支え、俺と鼻先を触れ合わせる距離で、凌がじっと俺を見つめている。  隙間なく繋がった凌の全身が愛おしくて、この瞬間が終わってほしくなくて——……俺の眦から、一粒だけ涙がこぼれた。 「……どうして俺を、このバイトに誘ったの」  そして同時にこぼれたのは、かねてから抱えていたその疑問。  凌は小さく微笑んで、また俺にキスをしてくれた。 「もし、辰巳さんとの儀式をしてしまったら……俺、もう東京に——いや、あたりまえの日常に戻れないんじゃないかって、不安だった」 「……戻れない?」 「大学に入るまで、俺の世界はここにしかなくて。狭い世界で古臭いしきたりに縛られて、逃げ場がなくて……いつも息苦しくてたまらなかった」 「ん……わかる気がする」 「でも、結希が一緒にいてくれたら……。儀式でなにがあったとしても、次の日に結希の笑顔が見れたら、俺はきっと戻ってこれると思った」  凌はそう言って、柔らかく俺の唇を啄んだ。  キスも、繋がった身体からじかに伝わってくる凌の声も心地いい。  力の入らない目で凌を見上げていると、また柔らかな笑みが降ってくる。 「結希の気持ち、なんとなく気づいてた」 「…………え? はっ!? うそ、まじで!?」 「儀式をしてしまったあと、俺はどうなってしまうんだろうって不安だった。辰巳さんとセックスするなんて想像するだけでおぞましくて、怖くて。……だから結希に、そばにいてほしくて」 「……うん、うん」 「結希の明るい笑顔にいつも救われてた。結希と一緒にいるだけでいつもすごく楽しくて、なんでかわかんないけど、すごくホッとするんだよ。……だから、結希を誘ったんだ。ごめん」 「そ、そっか……」  凌は心底申し訳なさそうな顔をしているけど、俺はその言葉が嬉しかった。  嬉しくて嬉しくてたまらなかった。  好意を見抜かれていたことには驚いたけど、こっちは全力で告白してセックスまでしたあとだ。もう恥ずかしいとか気まずいとか、そういう感情は消えている。  ただ気掛かりなのは、今後、俺たちの関係がどうなるのかってことだけ……。 「もちろん俺、引きずってでも凌のこと連れて帰るよ。……そんで、またちゃんと友達に戻るから」  自ら腰を引くと、凌のペニスがずるりと抜ける。  すると急に心も身体も寂しくなって、俺は身体ごと横を向いて膝を抱えた。 「だ、だからさ……気まずくて距離置くとか、そういうのナシにしてくれよな。凌は媚薬盛られてこうなったわけだし、別にエッチしちゃったことについては気にしないで……」 「え? いや、あの、俺も告白したつもりだったんだけど」 「…………ん?」  遠慮がちな声が聞こえてきて、俺はパッと凌を振り仰いだ。  身体を起こして軽く着物を整えた凌が、黒髪をかき上げつつ頬を赤く染めている。   「俺、結希の気持ちになんとなく気づいてからずっと、結希のことばっかり考えてた。……でも勘違いかもしれないし、たくさんいる女友達の誰かとこっそり付き合ってるのかもって勘繰ったりしてて」 「え? ええ……?」 「ずっと生臭いしきたりに縛られてて、恋愛っていうキラキラしたものには縁がないと思ってた。でも結希のそばにいると、薄暗いことを忘れられたんだ。俺といて楽しそうな結希に救われてたし、俺を見る結希の目がすごく好きで、好きで……」  凌の潤んだ瞳が揺れている。真摯な凌のまなざしが俺の胸を甘くやわらかく包み込む。  穏やかな胸の高鳴りが俺の心をあたたかく満たし、ぽろりと俺の目から涙が溢れた。 「結希が好きだ。これからも俺と一緒にいてほしい」 「凌……っ。うん、うん、いる! 一緒にいる! 一生一緒にいる!!」 「あはっ、あははっ……一生いてくれるんだ。嬉しすぎ」 「へへ……」  嬉しくて、気が抜けて、ぽろぽろぽろととめどなく涙が溢れる。  凌はそんな俺を優しい笑顔で見つめて、そっと唇で涙を拭い取ってくれた。 「……結希、もう一回してもいい?」 「え? もう一回って……」 「薬も抜けてきたし、今度はちゃんと結希を抱きたい」 「っ……えっ、あ、うん……」  突然王子様のような顔になった凌に微笑みながら口説かれて、思わず挙動不審になってしまった。  だけど優しいキスをされながら全身を淡く撫でられるうち、あっというまにトロトロに蕩けさせられ、理性のかけらも消えてゆく。    龍神様の祠の前で俺たちは何度も何度もキスをして、飽きることなく熱い気持ちを伝え合い、甘い甘い行為に溺れるのだった。  

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