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第2話

 その日の僕は、朝からずっと眠くて午後からの授業をサボる為に人の気配の少ない手前のグラウンドから数えて、一番奥の3号棟の3階に足を踏み入れた。  場所は、教材準備室。空き教室とか元教室って言うやつらしい。  3号棟と言っても、敷地内の建物の中では一番古いらしい。  ただ老朽化してるわけでもないから物置きとか、会議室とか部活の部室とか?  文化系の部活の作業場とかね…  色々な使い道は、聞く。  で、お決まりみたいに鍵でしか、開かないはずの教室の1つに下の戸が壊れていて簡単に開く所があるんだ。  ある年の先輩の1人が、そこから入れると先生達に言ったらしいけど…  敢えて黙認してるみたいだけど、それなりに目を光らせていて生徒の出入りを見つけたら問答無用で捕まえて罰するとかね。    なんか悪趣味過ぎて、マジでコワいって思ったから調べた。  その古い校舎に簡単に行く方法とか、誰も来ないような時間帯とか、効率良く自分だけが、サボれる方法を探した。  確かに1時間に一度は、見回りにくるみたいだけど、見守りに来る先生によって中まで調べる人と、ドアまで来て様子を伺っていくだけで終わる先生が、半々ぐらい居るようだった。  まぁ…生徒達が、サボらないようにってそれなりに注意喚起されてるけど、僕のようなヤツも結構いる。  それとこの部屋、裏では通称ヤリ部屋としても有名なんだってさぁ…  これも一定数の生徒達が、出入りしている理由の1つだと思う。  まぁ…学校まできてヤる意味はないし僕は、もう懲りたからヤらないけど…  それまでは、僕も似た事していたからなんとも言えない。  抱くとか、抱かれるとか…  その場しのぎの関係でも、僕には必要だから。   女の子には、特別甘い言葉だけ並べてれば、柔らかい手で頭を撫でてくれる。  それは、最高のご褒美。  男には、媚びを売って、か弱い振りをすると、すんなり力強い手で抱き締めてくれる。  それは、最高の安心感。  そんな感じに僕を、演じ分ける。  確かにバレるリスクの方が上だけど、それが分かっていても止められなかったのは、スリルみたいな感覚を相手共に分かち合えていたかもしれない。  でも…  落ち着いて思えば、学校って場所でヤるのは、単なるスリルとかでそんなのを求めて盛って、停学や退学とかなったら黒歴史だもん。  どっかの誰かみたいにさぁ…  どうせヤるなら効率良くヤらないとだし。  取って付けたようなキスは邪魔。  必要ない。  欲しいのは、見せ掛けの甘ったるしい言葉と残った傷口みたいに腹の奥が、疼くような余韻とか快楽だけで十分。  ただ自分以外の体温に触れていたいだけだから。  他人から好きだとか自分を、好きになって欲しいとか、お互いにセフレみたいな相手だと最初に念押ししても、相手を受け入れない僕にその相手は、我儘だと言いながらしつこく付き合って欲しい。セフレは嫌だとか…  一時的に、ウザイかったヤツがいた。  ホントにウザイから無視してたらいつの間にか連絡が途絶えて、僕の方がブロックされた事は、珍しい話じゃない。  それはそれで、構わないけど…  またにそれで、済まない場合のヤツも居るから厄介なんだよね。  アレは…  ヤツは、ヤバかった。  まぁ…他人事だけど…  それからは、少し自重して今のところは、明確なセフレはいない。  だからって、今更自分の欲求を満たすのにマッチング系に手を出す気にはなれないし。  …かと言って、また学校で相手を探すのは、マジでめんどい。  噂さや詮索もされたくない。  セフレが、同じ場所に居るとか気持ち悪い。    好きになってもらうのも、愛されるのも困るから。  「あれ?」  そう言えば、カメラ起動させたままだった。  画面に残された土屋の写真を指でなぞり上げる。  本当に気付かなかったのかな?  寝た振りって事も、ありえるし。    そう言えば、何で写真を撮ったんだっけ?  面白そうだからだっけ?  まぁ…実際、先生を脅しても何にもならないし…  って…傷跡で思い出したけど、土屋は夏場でも肌を露出した服装しないよな…  他の先生達が薄着で、Tシャツやポロシャツ着てるのに服装は、いつもネクタイ姿。  薄い色味が入ったYシャツで、必ず長袖か袖のボタンを外して肘下までしか捲くらない。  シャツの下にも、何か薄い七分袖のシャツを着てるっぽいし。  そう言えば、この間…  3年の先輩が、昇降口近くで悪ふざけして台に置かれた消火器を、ひっくり返して真っ白な消火剤をばら撒いた事があった。  消火剤の白煙を火事の煙と勘違いした生徒ら数人が、非常ベル押して…  また誰が、バケツやらホースやらで水を蒔いた為に廊下や昇降口は水浸。  床上1センチと言う状況で、教職員がサンダルやらどこかににあったらしい長靴姿で、ゾロゾロ出てきた。  その中に土屋も居たけど、あの時は珍しくジャージで膝下くらいに捲って大掃除してたっけ…  でも袖は、捲くらずに長袖のジャージのままだった。  まぁ…一階の教室が、大雨の洪水でもないのに床上まて水没するって中々ないものね…  教員と生徒総出の大掃除。  その日は、午後からの授業が潰れてラッキーってな感じに思ってたけど…  動けば蒸し暑くもなるわけで、ジャージの上着を脱ぐ先生が多い中でも、土屋だけは最後まで脱がなかった。  それだけ見られるとヤバい傷跡ってこと?  首や肩に腕…  もしかしたら背中とか?  そうまでしても、隠したい傷跡ってこと?    殴られ蹴られて出来た傷跡は、後に響くように残って…  言葉で責め立てられて出来た傷跡は、強く心を苦しめるようにどこまでも付きまとう。    それ以外の身体に出来た傷跡は、どんな風に刻まれていくのか…  今までただの担任って、思っていたけど、普通に興味が湧いた。  色々と聞き出したい。  でも土屋とは、接点がない…  今更ながら簡単に近付けような距離感でもない。  今みたいに簡単に近付けたのなら…  そっか。  今みたいに、こっそり。  近付けば、いいんだ。  今日は、たまたまかもしれないけど土屋の授業が無い日の午後とか、少し調べてみよう。  楽しさの延長みたいな気がした。  でも、ここは本当に色々なヤツらが、サボリに来るらしいからな…  僕は、頭を抱えた。

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