6 / 46

第6話

 誰の目にも分かるように俺は、慌てたが、それは後の祭り。  それからは俺自身も、ヤツと同類しされるようになっていった。  無視すれば、すがるように擦り寄り。相手にすれば、しただけ我が物顔で振る舞うその悪循環に吐き気がした。  『全く。お前は、何がしたいんだよ?』  暴言に近いそんな言葉を吐いた俺にヤツは、軽く触れる程度のキスをしてきた。  ハッとしたような俺の顔に気付いたのか…  『別に…そう言う関係になりたいわけじゃないよ。土屋には、付き合ってる子いるでしょ?…』  ヤツの表情は、フワリとしていて妙に嬉しそうだった。  『…って、僕が、原因で別れたんだっけ?』  『だったら。何だ?…』  『だったら。付き合っちゃう僕と?』  『無い…』  『えっ、即答?』  期待でもしていたのか、ヤツは唇をへの字に曲げて、頬を膨らませた。  あどけないような幼い雰囲気に人懐こい表情は、いつも誰かを魅了し常に周囲を騒がせていた。  ヤツとは、同じクラスでもないしヤツの我が儘で、近くに居るだけのおかしな関係。  そんなヤツの姿が、今の藍田 朝陽の姿に重なって見えはじめていた。  誰かと一緒に居るようで、一緒に居ない。  人の話しも、いい加減に聞いている。  いつも、つまらなそうで…  毎日、辛そうに生きている。  でもそれを、自分からは決して言わないし助けを、求めてこようともしない。  だから余計ヤツに被って見えるんだろう。  『…だって…面倒くさいもん人の顔色ばっかり気にすんの…』  『俺は、迷惑してるけどな…』  昼過ぎの誰も来なさそうな何かの部室みたいな物置き部屋…  眠そうに隣に座るヤツは、本を読む俺の肩に持たれてボーッとしながら目を開けている。  『どうせ同じ毎日なんって…ダルく繰り返すだけなんだから。つまんないって思えるぐらいが、ちょうどいいんだよ』  意味が通じそうで、通じなそうな言葉を並べながらヤツは、寝入ってしまった。  今度は、現在の俺が、ボンヤリとした目で薄暗い室内から晴れた青空を見上げる。  一時的な眩しさから奪われる視界。  ヤツは、最初から最後まで本音を言わなかった。  言っても、意味がないと思われていたのか…  巻き込みたくないとでも、思っていたかは、不明だけどな…  それでも今は、その上でも成り立った関係だと思っている。  『土屋…ホント。ゴメン!!』  事故後にヤツは、俺にそう謝罪した。  俺以外の周りを、どう思っていたのか…  俺を、本気でどう思っていたのか…  今現在ヤツは、過去の事だとはぐらかす。  ただ俺は、ヤツの存在をどうでもいいとは、一度も思わなかった。  だから冷静に好きだったのかと、たずねられると上手く答えられない。  ヤツも俺も、明確に好きだとか言う意志を表さなかったから。  友達と言うよりも、親友に近いが、親友らしくもない。  バグった距離で、毎日飽きもせず近くにいただけの存在。  「…また連絡するよ…か…」  アイツらしいと、スマホから視線をずらす。

ともだちにシェアしよう!