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第6話
誰の目にも分かるように俺は、慌てたが、それは後の祭り。
それからは俺自身も、ヤツと同類しされるようになっていった。
無視すれば、すがるように擦り寄り。相手にすれば、しただけ我が物顔で振る舞うその悪循環に吐き気がした。
『全く。お前は、何がしたいんだよ?』
暴言に近いそんな言葉を吐いた俺にヤツは、軽く触れる程度のキスをしてきた。
ハッとしたような俺の顔に気付いたのか…
『別に…そう言う関係になりたいわけじゃないよ。土屋には、付き合ってる子いるでしょ?…』
ヤツの表情は、フワリとしていて妙に嬉しそうだった。
『…って、僕が、原因で別れたんだっけ?』
『だったら。何だ?…』
『だったら。付き合っちゃう僕と?』
『無い…』
『えっ、即答?』
期待でもしていたのか、ヤツは唇をへの字に曲げて、頬を膨らませた。
あどけないような幼い雰囲気に人懐こい表情は、いつも誰かを魅了し常に周囲を騒がせていた。
ヤツとは、同じクラスでもないしヤツの我が儘で、近くに居るだけのおかしな関係。
そんなヤツの姿が、今の藍田 朝陽の姿に重なって見えはじめていた。
誰かと一緒に居るようで、一緒に居ない。
人の話しも、いい加減に聞いている。
いつも、つまらなそうで…
毎日、辛そうに生きている。
でもそれを、自分からは決して言わないし助けを、求めてこようともしない。
だから余計ヤツに被って見えるんだろう。
『…だって…面倒くさいもん人の顔色ばっかり気にすんの…』
『俺は、迷惑してるけどな…』
昼過ぎの誰も来なさそうな何かの部室みたいな物置き部屋…
眠そうに隣に座るヤツは、本を読む俺の肩に持たれてボーッとしながら目を開けている。
『どうせ同じ毎日なんって…ダルく繰り返すだけなんだから。つまんないって思えるぐらいが、ちょうどいいんだよ』
意味が通じそうで、通じなそうな言葉を並べながらヤツは、寝入ってしまった。
今度は、現在の俺が、ボンヤリとした目で薄暗い室内から晴れた青空を見上げる。
一時的な眩しさから奪われる視界。
ヤツは、最初から最後まで本音を言わなかった。
言っても、意味がないと思われていたのか…
巻き込みたくないとでも、思っていたかは、不明だけどな…
それでも今は、その上でも成り立った関係だと思っている。
『土屋…ホント。ゴメン!!』
事故後にヤツは、俺にそう謝罪した。
俺以外の周りを、どう思っていたのか…
俺を、本気でどう思っていたのか…
今現在ヤツは、過去の事だとはぐらかす。
ただ俺は、ヤツの存在をどうでもいいとは、一度も思わなかった。
だから冷静に好きだったのかと、たずねられると上手く答えられない。
ヤツも俺も、明確に好きだとか言う意志を表さなかったから。
友達と言うよりも、親友に近いが、親友らしくもない。
バグった距離で、毎日飽きもせず近くにいただけの存在。
「…また連絡するよ…か…」
アイツらしいと、スマホから視線をずらす。
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