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第18話 痛みと本音

 『家になんって、居たくなかった…』  『何で…オレばっかり?』  身体中を、ドスドス蹴られた痛みと訳の分からない気持ちが、入り交じって泣きそうなぐらい腹立たしかった。  足も引き摺らないと歩けない感じで、トボトボとダラダラ歩いている風にも見える気がするのか、擦れ違う人は、目も合わせてはくれない。  そんな時、ピッカと車のライトの光りが、ゆっくりと近付いてきてオレの近くで停まった。  車は、黒の軽で良く見かけるタイプの車だった。  「もしかして、藍田か?」  助手席側から顔を見せた人物に、そう声を掛けられた。  「お前…今まで、どこ行ってた?」  振り返ると土屋が、車の窓を開け路肩に止まっていた。  「…フラフラして気分が、悪いならなおさら家に帰った方がいい良くないか? 今日は、冷えるらしいし…」  気持ちが、冷えきってるオレに対して土屋の声が、心地いい…  歩いているのが、やっとでそれ以前に意識が朦朧とし始めている。  オレは、土屋の声に対して、どんな顔して振り返ったんだろう。  土屋が、ハッとした表情をした。  まぁ…どうでもいい。  そっぽを、向いた訳じゃないけど、今はさっきみたいに土屋と張り合う気力も無いからと、オレは前を歩こうとする。  そんなオレを、土屋は車から降りてきて再度、呼び止め腕を掴んだ。  「取り敢えず。車に乗れ…」  頭がボーッとしていて思考が働いてないって言うか、歩き疲れたと言うか…  背中を、擦るように置かれた手の大きさや温かさに目が覚める感覚だった。  車内は、少し暖房がきいているのかホッとする感じで…  微かに残る煙草の香りに気付いて、オレは運転席側に置かれた灰皿を横目で眺める。  土屋って、煙草吸うんだ…  少し意外だった。  そんなの吸わなさそうなイメージだし校内で擦れ違っても、近付いても、そんな匂いはしてこなかったから。  そんなオレの考えを察したのか…  「…夕方と夜だけだから。勘弁してくれよな…」  そう言って車を、走らせる土屋に僕は、変な安心感を覚えはじめていたけど、大人なんって敵で信じられない考えは、変わらないし。  周りに居る大人のようには、なりたくないって不満を、どこにぶつけていいのか、分からなくなっていった。  今のオレが、どう見えているのか聞いてみたいけど、そんな事を聞いても意味ない。  フト、窓の外に目を向ける。  「土屋…なんで、僕の家の住所知ってるの?」  「担任だからな…」  そりゃそうだ。  何を、今更…  「俺の借りてる部屋の近くでも、あるんだよ」  「そうだったの? 大雑把にどの辺?」  気でも、張ってないと気が遠くなり掛ける。  「川の反対側」  そう言えば、あの辺りは昔からマンションやアパートが、多く建っていたはず。  「…なぁ…それよりも…」と、土屋は僕の顔を食い入るように見詰めた。  「誰かに殴られたか? しかも結構…強目に」  咄嗟に腕で、顔を覆う。  「ケンカ…弱くは、なさそうだけど、自分から仕掛けるタイプじゃないだろ?」  言えない。  口ごもり下を向くように車外を見てた。  まるで土屋の声なんって、聞こえてないかのように…  それから数分、車が走ると僕の自宅前に着いた。  「着いたけど…相変わらず。真っ暗だな? 誰も居ないのか?」  父親は、地方の支社に長期の単身赴任、母親は…  「…その…夜勤のある会社だから、居ないんです…」本当は、専業主婦だけど…  「? 降りないのか…」  「鍵…忘れたみたいで…」  本当は、スクールバック中に入れてある。  母親の不倫だか浮気が、元で抗論して、平手打ちされて蹴られまくったとか、言えるかよ。  「ちょっと、待っとけ…」  そう言って土屋は、車の外に出て何やら誰かと通話を、し始めた。  口の動きを見ていると、一瞬。  “ シュニン ” と動いている気がした。  シュニンって、主任?  僕が、問題おこした時に吹っ飛んでくるゴリ押しのオバサン主任。  えっ…何で…土屋と主任が?  しばらくして運転席に戻った土屋は、許可が取れたと言い車を走らせた。  「あの…許可って、何?」  「藍田を、泊まらせる許可な…」  「ドコに?」  「俺の部屋…まぁ…主任達は、藍田の父親が長期出張っていうのも、知ってた。ただ母親が夜勤の仕事で留守がちだって言うのは、初耳だそうだ。まっ…今日は、時間も時間だし。本人言うに鍵が無いのなら。緊急の措置だと…」  「ありがとう……ございます…」  「うん。母親も、明日には戻ってくるんだろから。それまでな…」  オレは、唇を強く噛んだ。  傷口に染みたけど、そんなの気にならないぐらい複雑な気持ちだった。  それを察した土屋は、コンビニの駐車場に車を停めた。  「藍田?」  「当分、帰って来ない」  「何で?」  「…あの人…不倫? 浮気っての? してるから…」  きっと、呆れてる。  親も親ならや子も子だって、土屋だってそんな顔してるはず…  「…土屋?」  ジッとして真剣な目で静かに、オレの方を見ていた。  「…父親が、向こう十年以上とか言う長期の単身赴任で…あと最低でも、五年以上は、帰ってこないからって。それで元々あった母親の浮気癖が、父親の不在で、数年前から酷くなってきて…」  さっきも、顔を合わせるなり言い合いをしたけど…  オレが、知らないだけで…  男連れ込むのは、日常茶飯事なんだろうし…  相手の家に入り浸るのも、当たり前。  「藍田が、家に帰らないのは…」  「半分、母親が影響しているかも…」  家に帰っても、邪魔扱いされるし相手の男とは、鉢合わせしたくない。  「その平手打ちされたケガは?…」  「母親に…あと、右の脇腹とそ…っちこっち蹴られました。ちょっと痛いかも…」  「そう言う事は、早く言え !!」  少し荒々しい口調だったけどオレには、その声が優しく聞こえた。  「このまま病院に行くぞ!!」  「えっ…でも、お金…」  「そんなの心配するな…この近所に昔からやってる。医院がある。知り合いが、医者してるから診てもらうように掛け合う…」  「オレは、大丈夫ですけど」  嘘。  多分。大丈夫じゃない。  「顔が、赤い。ケガで熱が、出てるんじゃないか?」  いつもの気だるさとは、違ってホント目眩のするダルさ。  熱のせいなのか、息苦しい。  「何で…逃げ出さなかった?」  何で? それは…  「逃げ出せば、奇声上げけて追い掛けてきそうだったし」と、言うのは言い訳。  「…お前…殴られるだけのヤツじゃないだろ? 止めたりは、できただろう?」  なんか、土屋の言葉に笑ってしまった。  「…本気で、言ってる? “ こんな僕が  ” 母親を力付くで止めたりしたら。変な言い掛かり付けられて…悪者にさせられるよ……」  「藍田?」  「ちょっと…休ませて…」  しばらくして藍田は、助手席で安心した風に寝入った。

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