22 / 46
第22話
「…ヤツは、今は外国だっけ?」
「元気にしてるって、何日か前に連絡来てたよ」
「…そっか…元気にしてんのか…」
改まって、納得したような秀哉だが…
「さて…この子どうすんだ?」
「あっ、取り敢えず俺の部屋で、しばらく様子を見るよ。家に帰りたくないらしいから…」
「そりゃそうだけど、お前一人で帰られるか? いくら小柄な子でも高校生だろ? 自分の荷物もあるだろうし。この子の荷物もあるんだろ? なんなら荷物持ちぐらいはするぞ」
「迷惑じゃ?」
「そうでもねぇーよ。医院は、もう時期閉める時間だしよ。オレとしては、スーパーで半額の惣菜かツマミになるものを調達したいんでね」
そう言って秀哉は、笑った。
助けられてる笑顔と言うか、安心させる表情は、得意分野なんだろうと思わせる。
「お前には、多目の保湿剤と藍田くんって言ったか? 彼には痛み止めと胃薬、湿布を出してやるから。藍田くんを車に運んで、先に帰って待ってろ…お前の所の駐車スペースに横付けして荷物持ってやるから!」
そんな話をしたのが、今から二時間程前だ。
相変わらず藍田は、眠っているが、痛み止めの薬で眠らされているのかもしれない。
静かに俺のベッドで、寝息を立てている。
苦しがってない所を見ると、こちらとしては、安心もしたが…
もう少し早く駆け付けられたんじゃないか?
そんな申し訳ない気持ちがまさっていた。
藍田の口元には、大き目なガーゼがテープで止められている。
秀哉が言うには、何か固いモノが当たったのではないか、と言う見解だった。
ガーゼの上からでも腫れているのが、分かる程だ。
「俺みたいに痕が、残らないと良いけど…」
思わず藍田の顔に触れていた。
熱は、無さそうだし。
寝苦しくも、無さそうだ。
何となく。
その顔と言うか、寝顔と言うか…
やっぱり雰囲気が、ヤツに似ていて調子が狂う。
前から言っているように、ヤツと藍田は違う。
なのに同情のような哀れむ気持ちが、沸き起こって仕方がない。
顔から手を離すと、ハネっ毛のあるサイドの髪が、爪に引っ掛かった。
一瞬、モゾっと動き。
起きたか? とも思ったが、藍田はまた静かに寝入った。
焦ったのは、言うまでもなかったが、俺は無意識にその頭を撫でていた。
まったく何してんだか…
手に残る柔らかい髪の感触に戸惑ったが、何してんだかは、まるで他人事のように俺を、困惑させる。
決して、私情を持ち込んだつもりはない。
藍田は、よく問題を起こす生徒だ。
担任だから赤の他人よりは、近い存在なのかも知れないが、それ以下でも、それ以上でもない。
だから俺とヤツのように距離感を履き違えてはならない。
いまだに手に残る髪の感触を、大袈裟に消すために、手を力強く握り締める。
取り敢えず今は、このまま眠って少しでも、傷が癒えればいい…
そんな気持ちとは、裏腹に握り締めて出来た手の平の爪痕と残った痛みが、あの頃のを自分達を思い出させてくれた。
ともだちにシェアしよう!

