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第22話

 「…ヤツは、今は外国だっけ?」  「元気にしてるって、何日か前に連絡来てたよ」  「…そっか…元気にしてんのか…」  改まって、納得したような秀哉だが…  「さて…この子どうすんだ?」  「あっ、取り敢えず俺の部屋で、しばらく様子を見るよ。家に帰りたくないらしいから…」  「そりゃそうだけど、お前一人で帰られるか?  いくら小柄な子でも高校生だろ? 自分の荷物もあるだろうし。この子の荷物もあるんだろ? なんなら荷物持ちぐらいはするぞ」  「迷惑じゃ?」  「そうでもねぇーよ。医院は、もう時期閉める時間だしよ。オレとしては、スーパーで半額の惣菜かツマミになるものを調達したいんでね」  そう言って秀哉は、笑った。  助けられてる笑顔と言うか、安心させる表情は、得意分野なんだろうと思わせる。  「お前には、多目の保湿剤と藍田くんって言ったか? 彼には痛み止めと胃薬、湿布を出してやるから。藍田くんを車に運んで、先に帰って待ってろ…お前の所の駐車スペースに横付けして荷物持ってやるから!」  そんな話をしたのが、今から二時間程前だ。  相変わらず藍田は、眠っているが、痛み止めの薬で眠らされているのかもしれない。  静かに俺のベッドで、寝息を立てている。  苦しがってない所を見ると、こちらとしては、安心もしたが…  もう少し早く駆け付けられたんじゃないか?   そんな申し訳ない気持ちがまさっていた。  藍田の口元には、大き目なガーゼがテープで止められている。  秀哉が言うには、何か固いモノが当たったのではないか、と言う見解だった。  ガーゼの上からでも腫れているのが、分かる程だ。  「俺みたいに痕が、残らないと良いけど…」  思わず藍田の顔に触れていた。  熱は、無さそうだし。  寝苦しくも、無さそうだ。  何となく。  その顔と言うか、寝顔と言うか…  やっぱり雰囲気が、ヤツに似ていて調子が狂う。  前から言っているように、ヤツと藍田は違う。  なのに同情のような哀れむ気持ちが、沸き起こって仕方がない。  顔から手を離すと、ハネっ毛のあるサイドの髪が、爪に引っ掛かった。  一瞬、モゾっと動き。  起きたか? とも思ったが、藍田はまた静かに寝入った。  焦ったのは、言うまでもなかったが、俺は無意識にその頭を撫でていた。  まったく何してんだか…  手に残る柔らかい髪の感触に戸惑ったが、何してんだかは、まるで他人事のように俺を、困惑させる。  決して、私情を持ち込んだつもりはない。  藍田は、よく問題を起こす生徒だ。  担任だから赤の他人よりは、近い存在なのかも知れないが、それ以下でも、それ以上でもない。  だから俺とヤツのように距離感を履き違えてはならない。  いまだに手に残る髪の感触を、大袈裟に消すために、手を力強く握り締める。  取り敢えず今は、このまま眠って少しでも、傷が癒えればいい…  そんな気持ちとは、裏腹に握り締めて出来た手の平の爪痕と残った痛みが、あの頃のを自分達を思い出させてくれた。

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