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第25話

 俺自身、中途半端な辺りからあの学校に来た事もあり最初にも言ったが、本当に見掛けは品行方正で、おとなし目の真面目な生徒にしか見えない。  でもまぁ…  今にしてみれば、ヤツの元担任達も過労と鬱で辞めたていったのだから明日は、我が身かと吹き出しそうになった。  確かに面倒くさい生徒ではあるが、前任者達みたいに俺は、何かするつもりはない…  前任者達は、大方、明るみになるヤツの素行から鬱にでもなったんだろう。  向き合う度胸も無いくせに、正義感で強がって見せて口出して、正そうとかするからキャパオーバするだ。  ただ前任者達のやり方や考えを、否定する気はない。  真面目な教師なら、それなりに口出しするだろうし譲歩するのもありだろうから…  「ましてや生徒達が、全部合意の上で付き合っているなら見ない振りぐらいはするだろう?」  「…合意かぁ…でも、オレそこまで割り切れなくて…好きでヤルもんだと思っていたし。でも、あの日…ヤった勢いで告白したら。アイツは」  『言ったよね? 付き合う気は、最初からないよって、僕とはセレフ。それが、守れないのなら。もうセレフも無し…』  『 オレは…そんなんじゃなくて…』  『惨めったらしい。萎えた…』  「そしたら…オレ、頭きて…無理矢理アイツの身体を押さえ付けて迫ったら逆に口元に咬み付かれて反動で、顔を結構強く殴って…アイツにブチ切れられました」  「……で、あの騒ぎに?」  「そんな所です」  あの件の裏にそんな事が、あったとか…  何が、穏便に手を打っただ?  ちゃんと調べもしないで…  …って俺が、言えた義理じゃない俺も、あの時は元生徒の話を信じたからな…  あの頃と、何も変わっちゃいないんだな…  当時の俺らも相当だったが…  「土屋先生? どうかしましたか?」  「いや…別に…」  …元々正常じゃない学校のクラスしか知らなくて…  研修の時に受け持った学年や学校自体の穏やかな雰囲気に唖然としたことを今更、思い出した。  すると元生徒は、声のトーンを変えた。  「先生。オレ。今、日中バイトしてて、ある高校の夜間に通ってます。オレのしたことは、かなり問題行動だと思うし。これから、どうなるかは、分かんないけど…高卒認定取って…大学いけたらな…って…」  元気そうに振る舞いながら元生徒は、隣で頭を掻いた。  「そっか、取り敢えず今は、安心した。一組の担任には、今、頑張ってること伝えとくな…」  「ハイ…でも、土屋先生。こう言っちゃ何ですけど…よく辞めませんね。今まで一番、病みそうに見えるのに…」  「そうか?」  元生徒は、ニッと笑いながらも、気を取り戻すように真面目な顔付きに変わった。  「あの先生…」  「ん?…」  「オレは…藍田が、皆から言われるようなヤバいヤツには、見えないんです」    俺は、改めて元生徒の方に向き直す。  「何って言うか…本心を隠してるようで、寂しそうに見えたから…力になれたらなぁ…って思えたけど、オレには無理でした…」  夕暮れ時だが、夏場の強い西日が容赦なく照り付ける眩しさに、顔に手の平をかざす。  その話しをしたのが、今から二ヶ月前の夏休みの終わる直前だった。  事件から数えれば、半年。  元生徒は、二人の間で繰り返してきた会話や出来事を、思い返しながらずっと悩んでいたんだろう。  今なら分かる。   元生徒の言葉と、その気持ちが…  あの日から二ヶ月後の今、藍田は、母親に殴られ…  あの時よりも、ボロボロになって俺の部屋のベッドで寝入ったまま次の日の昼を迎えようとしていた。

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