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第26話

 何か…  お腹が空くような、いい匂がした。  久し振りに嗅いだご飯って言う美味しそうな匂いに、お腹が鳴りその音で目が覚めた。  そう言えば、昨日は…朝からろくに食べてない。  って、ここは…ドコ?…   そんな考えの中で自分が、見知らぬ場所に寝かされている事に、驚いた。  あれ?  昨日は、  そうだ…  母親のいわゆる逆鱗?…に触れボコボコされフラついて歩いていた所を、土屋が見つけてくれて病院に連れて行ってくれたんだっけ?  左頬にかなり痛みが残っているし。  起き上がろうとすると、身体中に痛みが走って、身体を動かせない。  そっか…  ここは、土屋の部屋なんだ…  オレ。  治療台の上で、寝ちゃって、  多分。運んでくれたんだ…  ボーッとした意識の中で、誰かの気配に気が付いた。  「…藍田… 起きたのか?」  耳に届いたのは、普段学校では聞かないぐらい低く落ち着いた土屋の声だった。  身体を動かせないオレは、目だけを動かした。  「起きれそうか?」  「ん…」  口を開こうとした時、口元に痛みが走った。  どうやら喋る事も、難しいらしい。  「…………」  「口を動かすと痛みが、出るかもって秀哉が、言っていた…傷口が、思ったよりも痛むようなら化膿止めも出すって言っていたから。心配はいらない…」  目に映った土屋の姿は、いつもの真面目な姿とは違って、ラフでダボッとしたトレーナーを着ていた。  こう言う部屋着も、着たりするんだ…  土屋と言えば、真面目にスーツでネクタイが、基本の服装だから何となく見慣れない格好に戸惑った。  そりゃ…そうだよな…  ここは家だもん。  逃げて、隠れる場所じゃない。  この頃のオレは、家に居ても直ぐに外に出れる格好で、主に自室に込もって過ごしていた。  その気になれば、二階から隣の塀を伝って外に出た事もあった。  だから常に部屋のベランダには、靴を置いていた。  さすがに裸足では、走れないし近所から何を言われるか、分かったもんじゃない。  ただそれらの原因は、言わなくても母親だ。  なるべくなら家には、帰りたくない。  母親には、関わりたくない。  仮に父親に助けを呼ぶにしろ…  オレが、父親に対して自由にしていいからって、言った頃から本当に連絡を取らなくなったし…  殴られたのは、自業自得。  嫌みの一つでも言ってやろうなんって、思わなきゃよかった。  「少しは、寝れたか?」  身体の痛みとは違って頭だけは、スッキリとしていた。  近付いてくる土屋は、普段と変わらない様に見えたけど…  首元の傷痕と言うより火傷の痕のような…  それに目がいった。  ハッとオレの視線に気が付いたのか、土屋は慌てて服の襟首を掴んだが、土屋が困る必要なんってないし慌てる必要もないとオレは、大袈裟ぐらいに首を振った。 「…だい…じょ…ぶ…」  唇が上手く動かせないのかオレの発音は、片言みたいになって聞こえる。  大体…  その傷痕を、面白がって見たのはオレだし。  「…ご…めん…」  「何で、藍田が謝るんだ?」    謝罪しきれない程にやらかしているオレが、謝った所で何にもならないけど…  涙で少し視界が、ぼやけているのか見慣れない空間が、ただリアルで現実を受け止めなきゃならないのに泣きそうになっている自分が、小さくて弱いものになっているのが、許せなくなっていた。  

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