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第33話

 藍田が、俺の部屋で寝泊まりするようになり約二週間。  適度な距離感を保ちつつなるべく一人っきりさせないように俺と藤里が、仕事の合間を見付けては、顔を出していた。  「昼間は、もう大丈夫だよ。動けるようになったし。先生達の方が行ったり来たりで大変でしょ?」  フッと、笑みを見せる藍田に俺達は躊躇したが本人が、大丈夫と言うのならと、昼間顔を出す頻度を減らした。  例のと言うのか…  俺は、水曜日の昼間だけ戻るようにしている。  「無理しなくて大丈夫なの…」    動けなかった週は、迷惑にならないように時間に配慮してもらいながらと、秀哉に来てもらって面倒を見てくれることもあった。  秀哉の病院は、在宅で定期的見ている患者さんも多い。  その合間に顔を出してくれた。  『昼は、お前が作り置きしてたスープにパン食って…ちゃんと処方通り薬飲んで横になりたいからって…横にさせといから』  『分かった。本当にありがとう…』  『良いよ。診療次いでだ…ただ…』    と秀哉は、こう続けた。  怪我の治り具合を見ていた時に思ったらしい。  藍田の傷は、アレが初めてじゃないと…  『所見で見た時は、打撲痕って感じに見えてたけど、小さいがどう見ても…痣みたいなのが、背中に何箇所か残ってる…これは、あきらかに虐待だな…』    その言葉に藍田が、家に寄り付かない理由が、明確になった。  『お前の…その火傷の跡になる前の背中見てるようだったよ…』  当時の秀哉は、デカい病院で研修医の傍ら家の手伝いをしていた。  そこで何度も、運び込まれる俺の治療をしてくれた事もある。  付き添いとしてアイツが、問診票なんかの記入をしてくれた事もあるから顔見知りでもある。  『藍田くん見てると、当時のお前らを、見てるような気分になるよ』    自覚はあったからか、『そうか?』と、惚けてみせた。  『まぁ…それはいいとして…本人が、動けそうって言うから。そこまで頻繁に顔を出さなくても良いと思う…今まで通りに作り置きやレンチンで食える冷食を、食うために動くことも大事だ! 見守ってやれよ』  『分かった藍田とも話してみるよ』  それで本人が、良いというから最初の話し合いに繋がるわけだ…  「そう言えば、読んでるのか?」  「あぁ…本のこと? うん。読んでるよ」  俺が昔読んでいた本を、藍田が読むようになって二〜三日が経った。  観察していた訳じゃないが…  「ぷっ…」と、笑ったり。  「〜〜?」とか、難しそうな表情をしたり驚いたりと色々な変化を見せてくれていた。  十年前、同じ本を読んでいたはずなのに…  どんな物語だったか、どんな人物達が出ていたのか、全く思い出せない。  それぐらい俺は、ただの読み物として本を持ち歩いていたらしい。  本を読んでいるヤツに声を掛けてまで、近寄ろうとするヤツはいないだろうと、ただひたすらに目で文字だけを追っていた。

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