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第34話

 まぁ…よく顔に痣を作って登校していたからかヒソヒソされることはあっても、その時点で声を掛けようとしてくるクラスメイト達はいなかった。  それでも、他校にカノジョらしいような…  何かにつけて、気に掛けてくれる鬱陶しいまではいかない人が居た。  向こうは、俺をカレシとして接していたが…  俺の態度が良くなかったのか、ヤツの存在が嫌だったのか…  日に何度もあったメッセージが、急に途絶え始めた。  それを俺から聞いたヤツは、ニコニコご機嫌で遊びに誘ってくるものだから俺は、いつの間にかそのカノジョの存在を忘れていった。  『…土屋は、僕と遊んでる方が…土屋らしいよ』  ある日、出先で立ち寄った公園のベンチにヘラッとした顔で、当然のように隣に座り込み俺の顔を覗いては、満足そうに笑う。    気を使うわけでも、文句を言われるわけでもない。  丁度いい。  その距離感が、案外好きだった。   『てかさぁ…デートにまで本持って来る?』  『なんでデート? どっちかって言うと…平日の病院帰りだろ?』  『サボりとも、言うよね?』  『補導されたりしてな…』  『土屋的には、その方が良いのかもねぇ〜っ…で、僕は、土屋を救ったヒーローって事で!』    ベンチに腰掛けたままヤツは、ビシッと何かのポーズを決めた。  その何のポーズなのか、いまいち分からないが…  『えっ…分からない? 子供の時にやってた◯◯レンジャー?』  ヤツは、主題歌のサビと言う所を鼻歌で歌ってくれた。  『……………………』    見たような見たこないような…  あぁ…でも、主題歌を覚えてるような?    『…あんなに流行ってたのにぃ〜?!』  『絶叫するほどかぁ?』  そう言えば…  失踪した母親が、それの塗り絵を買ってくれたような…  神社のお祭りで、それのヒーローショーをするからって一緒に言ったことを、ボンヤリと思い出した。  『えっ! 土屋も行ったの? 僕も行ったよ。ショーの最後に握手してもらって写真撮ってもらった!!』    『そんな事もあったなぁ…』  『覚えてんじゃん?』  数少ない母親との思い出。  『土屋さぁ…僕んちにしばらく居てくれてもいいよ。両親は、相変わらずだけど…それなりに味方はいるから』    『…うん…』  ヤツも、色々と複雑な家で…  裕福ではあるものの父親の浮気相手の子供で、母親がヤツを育てられなくて施設行きと言う所で、父親が引き取り家に住まわせて居るらしい。  奥さんの手前、ヤツを可愛がる事は出来ないが…  成人済みで、家を出た奥さんとの子供達同様に第三者を介して接してくれていると言う。  『父さんと違って、あの人は血が繋がってないし…避けられるのは仕方がないよ…でも、面倒は見るって言われているから…土屋の事も、知っているみたい』  『うん…』  『叩かれるとか、そう言うのはない。あからさまに無視が普通。他の兄弟達とは…それなりに親しくさせてもらっているけど…あの人とは、仲良くは出来ないんだと思うよ…』  俺の傷を見て泣きそうになるぐるぐらいのヤツが、自分の事で傷付かないはずがない。  早朝の朝イチ…  顔が半分。すげー腫れていたに違いない。  俺の顔は、殴られた直後の藍田みたいな頬で、その日診察が始まると同時に駆け込んで、秀哉のオヤジさんにデカいガーゼで手当をしてもらった直後だった。    『痛い?』  『…………』  痛いと言って、痛みが消えるわけでも、虚しさがなくなる訳じゃない。

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