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第40話

 そこまで慌てているふうに見えなかったが、土屋の方から「悪い」と、Tシャツの袖をもとに戻して薬の蓋を閉め上着をはおった。  「あの…オレの方こそ…」  「……いや大丈夫だ……」  「その…お風呂上がったから。あと…外…少し寒くなってきたからシャワーだけだと…」  「心配してくれてありがとう。俺は、大丈夫だ。この時期はシャワーで済ませる事が多いから…藍田が、ちゃんと温まればそれで良いよ」  「うん。温まった」  藍田は、なるべく土屋を見ないようにと視線をずらそうとするが、やはり土屋の方に視線が言ってしまう。  テーブルの上に薬は、藤里医院と表記された薬袋とクリームの容器。  自分も、しばらくはこの薬袋を見ていたからよく分かっていた。  「何見てたの?」  「あぁ…クイズ番組かな?」  テレビでは、簡単なようで簡単ではない小学生で習うような問題のクイズや少し難しい歴史モノを中心とした番組だった。  「オレも見る!」  ドチラかが、先に答えを言い当てたり。  答えるのが被ったりと、それなりに楽しい。  家でこうやって誰かと笑いながらテレビを、見た記憶がない。    「…さすが…教師!」  「それ言ったらお前は、現役の高校生だろ? しかも成績は良いんだし」  「家でおとなしく…って考えると、やれることなんって勉強ぐらいだったし…本もニュースも…スマホで見る分は、静かにやり過ごせたから…」  「そんなに家で、制約してたのか?」  「いや…アレが、いつ帰ってくるか分からないし…土屋も知ってるでしょ? スマホが通じないの…」     土屋は、静かに頷く。  「オレの両親…まぁ…いわゆるデキ婚でさぁ…元々は遊びで、結婚する気はなかったんだって…でも、オレが出来たもんだから仕方がなく…」  家族なんって形ばっかりだと、藍田は土屋に言う。  「まぁ…父親の方は、金銭面で面倒は見てくれてるかな? でもオレが、高校を卒業したら…別れんじゃないかなぁ…」  遠い目をしているつもりはなくとも藍田は、物思いにドコかを見つめている。  「母親からすれば、オレは邪魔なんだよね…オレの自宅の部屋二階だけど、いつでも逃げれるようにって窓の近くに靴置いてた。ドアの前には、棚置いてヤバイってなったら靴履いて直ぐに出れるようにしてたんだ…」     そして藍田は、無意識に殴られた左頬を擦る。  人一倍落ち着き払った表情をしながら土屋に振り返り笑ってみせたが、それは痛々しくもある微笑みだった。

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