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第41話

 ナゼ。  そうまでして、殴られなければならないのか…  ナゼ。  そうまでされて、助けを求められなかったのか…  それは土屋にも、分からない。  学校の課題のように簡単に解けるものなら苦労はしないと、藍田に告げると目をパチクリさせ土屋がいるダイニングテーブルに駆け寄りテーブルを、バンっと両手で叩いた。  「何だよそれ!! どう言う意味?」  あきらかに藍田は、怒った表情で土屋と視線を合わせる。  口を滑らせた感覚は、土屋にはなく何となく向こうも知っている風に喋ったに近い。  「別に…変な意味で言ったんじゃない」  「何が?」  「藍田とは、少し違う話になる…」  「はぁ? オレ?」  「…小六ぐらいの時だったか…経緯は忘れた…」  会社でミスをやらかしたのか、祖父達に見限られたのか、アルコールで人格が変わる度に暴力的な父親へと豹変するようになったと、土屋は思い出話とは違う口調で話し始めた。  「母親の方が、早々に愛想尽かして出ていった…顔は、何となくは覚えてるが、今街なかで擦れ違っても分からないかもな…」  自分よりも、土屋と家族の方が希薄な感じがした藍田は、黙って耳を傾けた。  「…昔住んでた家は、秀哉の家の近所で…殴られて流血する度に自分で駆け込んだり近所の人が、連れて行ってくれたんだ。まぁ…よく警察も来てたし…一時期は、酷かったなぁ〜…」  「えっ…?」と、疑問を持った藍田だったが、土屋の冷静に話す度にその表情が、吹っ切れている事に気が付いた。  「ご近所トラブルなんってのは、まだ生温い。当たり始めると誰にでも食って掛かるからたちが悪くてなぁ…一回通報された時に警察までに殴り掛かろうとした時は、人としてヤバイって思ったよ」    警察に殴り掛かると言うパワーワードに藍田は、少し怯んだように小さくなる。  「なんって、説明すればいいかなぁ…そんな親の子だから俺も、ヤバかったのかもな…」  ある日の事故として背中に火傷を負ったこと。  その傷の治療で数ヶ月入院することを余儀なくされた頃の話に差し掛かると、土屋は口ごもる事なくまた淡々と話し始めた。  「幸いなのか、俺の入院期間中に父親は、アル中の専門機関ってのか? 施設っていうのか、そこで…死んだ」  「マジで?…」  「あぁ…散々迷惑掛けまくった男の最後は、施設の小さな部屋のベッドだった。その頃は酒は抜けていたはずだから正気だったろうに…」  ただ具合が悪いからと寝ると言い。  横になったのを確認した職員は、その様子を心配しその日当直だった先生を連れて見に行くと、そのまま亡くなっていたらしい。  元々、酒の飲み過ぎで肝臓を悪くしていたのが、死因の一つだと秀哉の父親は土屋のお見舞いがてら伝えに来てくれた。  葬儀は、身内のみ。  土屋の祖父達が、取り仕切ったらしく孫には、四十九日が終わってから伝えて欲しいと秀哉の父親に頭を下げたと言う。  祖父達は、土屋の見舞いに来たかったらしいが、今までの息子の言動や何もせず見て見ぬ振りをして来た自分達に非情さに申し訳無さを感じていると…  『まぁ…罪滅ぼしとでも言うのか…了くんの入院費は、自分達が持つと言っていた。父親の保険金は、これからの学費にと…勿論、足りない分は、出すそうだ…』   『そうですか…』  その頃の土屋は、歩行はできたが、思うように動けないこともありベッドの上で起き上がり本を読む事が多くなっていた。  主治医が言うには、合併症や感染症のリスクがなくなったとはいえ治療方針や学業の事で、秀哉の父親に度々、相談にのってもらっていた。  『まだ痛むよな…』  『まぁ…少しは…今は、突っ張る感じです。でも事故にあった場所が、学校の昇降口で、たまたま駆け付けてくれた先生の起点で、近くの水道からホースで水掛けてくれていたから。これぐらいで済んだって…』  深い傷跡は、皮膚移植でよくはなってきているが…  『軽く広範囲だから痕は、どうしたって残るらしいって…』  『その説明は、聞いてるよ…退院も、もう少し様子をみてからになるらしい。ただ退院しても傷の経過や治療でしばらくは、通院することになるだろうな…』  土屋の部屋は、一般病棟ではあったが個室が用意されていた。  それも祖父達の配慮だったらしいと、後から秀哉の父親から聞かされた。    かろうじて難を逃れた左側で寝起きが出来るようになったが、略動かしてなかった右腕は、筋力が落ちたのか、げっそりとして見えていた。    『それより学校は、どうする?』  『……………』  『教師を目指しているんだろ?』  『まぁ…』  『大学は、それなりに掛かるからな…爺さん達の意思に今は、甘えてろ…』  素直に頷いて良いものなのか、漠然とした答えが既に用意されていて…  頷くよりも、単純すぎてただ『はい…』とだけ答えていた。  『あと…これは、そのうちの話しになるらしいが…』  祖父達は、二年以内に手厚い介護施設の入所を控えて買ったマンションをどうするか、迷っていると言う。     『了の父親意外、子供は居ないんだとさ…オヤジさんの家には住みづらいだろうから。良ければそこに移り住んでもらってもいいって…』  『……………』  『入院は、そこまで長引く事はないと思うが、事故が起こってから三ヶ月は経つ退院しても、通院に時間が取られる。今の学年での卒業は、難しいと考えた方がいい…』  『そのことなんですけど…同系列の学校が県内にはあるから…そこに復学しては、どうかって…学校が…』  『悪い話じゃないが…事件が事件だからなぁ…県内は…』  二人で言葉を濁したのは、言うまでもない。    『あの…それで少し考えているんですけど、来年から他県の高校に三年から通い直して、他県の大学に通うかなって…』    これ以外、最善策が浮かばなかった。  『良いんじゃないか? 保証人や手続きは、オレがなっても構わない。史実、お前の爺さんから頼まれてるからな…』  『よろしくお願いします…』  それから丸十年は、経っている。

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