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第45話 淋しいのは…
当時の事故が、今なお面白おかしく書かれているのは知っている。
あることない事ない事を書くのは、仕方のなことかもしれない。
俺とアイツは、あの事故では被害者になるらしいが、配慮で実名は報道されることはなかったらしい。
ただ逆に事故は、大袈裟に盛られ事故を引き起こした当人と俺達の実名がネットに載ったとか…
おそらくその情報から察するに、バラしたのは学校の関係者らしいとの事だから同級生やその辺りからだろう。
当時のネット記事は、さすがに削除されているらしいが…
今でも、それらに関する記事を、目にすることは出来るだろうから見る者が見れば、俺達の事だと気づくはずだ。
『痴情のもつれってやつね』それに関して俺は、部外者だ。
確かにアイツの方から。
俺を、お気に入りにすると言ってきたが…
付き合っていたわけじゃない。
それに近い事は……
『してたじゃんねぇ〜?』
わざとらしくニャニャした顔のスタンプを押してくる。
『土屋だって満更でもなかったでしょ?』
『何が?』
ブーッ、ブーッ、
ブーッ、ブーッ、ブーッ、
ブーッ、
突然の着信に思わず通話の表示に触れてしまった。
「…もしもし…」
「もう〜っ、早く出てよ!」
そんな何気ない言葉でも、相手の声だけで何となく表情が想像できてしまう。
「声、でけぇよ…」
「デカくもなるよ! じゃ何? 土屋は、僕を何とも思ってないのにチュウとかしてきたわけ?」
「?…………」
「そりゃ…僕が、土屋の当時のカノジョから略奪した感じでは、あるけどさぁ〜!」
「…話しが…ズレてる…」
「いや…ソレは…」
言い掛けてヤツは、黙った。
あの事件が、俺達の間にもたらしたのは、別れではなかったが…
別離のようなものだった。
俺は、結局四〜五ヶ月の入院とそれに伴った通院を余儀なくされ翌年の三月から他県の高校に人知れず転校しその地域の大学に進学した。
その一方でヤツは、高校を中退し親から資金を渡され俺の前をウロチョロしていたかと思えば、突然と言うか…
いつの間にか、外国の田舎に居着いてしまった。
一応、チラホラと恋人と言う存在をチラつかせながらたまに連れ立って日本に帰って来る。
同じカレシ…だった試しはないが…
今、現在付き合いのあるカレシとは、二年弱と長く続いているらしい。
たまに会話やメッセージに出るぐらいだから…
「今の所、お気に入りかな?」と言うふうにアイツは、おどけて見せた。
「良かった…」
「へぇ…何が?」
「別に上手くやれてんならそれで良いって事な…」
今の相手が、気にならない訳じゃない。
「…まぁ…ね…それなりにね…」
ちゃんと付き合っていた訳でも、好きと言われた記憶もない。
ただ傍に居てくれた。
仮に…
お互いが、お互いに存在を求めていたらヤツは、ここに居てくれたのだろうか?
多分。
それはない。
俺とヤツが一緒に居ないのは、一緒に居れば、あの事故のことを思い出し俺は喋らなくなりアイツは、自分を責め自分を追い込んでしまう。
それを、互いによく理解しているから一緒にいれないだけなんだ。
そして俺の立場では、アイツを慰める事ができない。
もしもこの先、背中の傷跡を治す治療をして消えたとしても、残像みたいに目に焼き付いていて、何もないのに傷跡に怯え不安がるアイツを、俺は見たくない。
だからこの距離感が、俺達にとって必要なんだ。
「土屋はさぁ…困り事とか、自分から言ってこないからねぇ〜こっちが、気付かないとならないんだよ」
「俺は、察せなんって言ってない」
「ほら。図星だ。面倒くさいヤツ…」
思わず。スマホを持つ手に力が入る。
「なんって言うかね。土屋と遣り取りするには、コツがあるんだよね…」
俺は、ヤツとは何気なく話しているだけなのにヤツは、知ったふうな口調で話しかけてくる。
これがヤツなりの気遣いなんだと思う。
「話しが…まとまってないのか、躊躇してるのかは、分からないけど…」
「………………」
気を使わずに居られる相手なのは、あの頃と変わらない。
「時差あるけど…気にしないで掛けてきなよ。相手するから」
「うん…」
「そう言うところは、素直だねぇ〜」
「そりゃどうも…」
「僕は、好きだよ。土屋のそう言うところ。何って言うかほっとけない感じのするところって言うの?」
ここで俺は、何かに気が付く。
「……お前…何か…今日は、長話だな?…」
「あぁ〜それは、フジがさぁ…」
ヤツが言うフジとは、藤里医院の藤里 秀哉の事だ。
「なんかさぁ…メッセージに話し相手になってやれ的なこと書いてきたから」
あの…アホが原因か?
「土屋?」
あのヤローとんでもないフェイント入れんなよ…
「どうしたの?」
「いや…」
いずれ相談ぐらいはと、考えてはいたけど…
それは確実に今じゃない。
「いつもみたいに聞きたいことがあるなら答えるし言いたいことが、あるなら聞くからね」
そう言って通話が、切れた。
声が聞こえなくなったスマホを片手に持ったまましばらく耳に押し当てる。
物悲しいのか、淋しいのか…
この気持ちは、ヤツに対する未練なのか…
今更な感じもするが、もうどうにもならない事だと知っているからこそ一呼吸置きスマホを自室のテーブルに伏せた。
例え後悔をしていても、これ以外の正解なんって無かったのだから…
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