2 / 179
第2話 バー トリスタン・ツァラ
「おはよう」
マスターの挨拶。時間帯ガン無視でいつも同じ。
「お疲れ。どう忙しかった?」
「うん、別に。」
俺は飲み物を頼む。
「うーん、なんか笑える奴。」
「テキーラ・サンライズだな。」
「ミックジャガーが好きな奴だろ。笑えるか?」
「うん、微妙だな。サンライズってのはこの辺の若い奴の口説き文句だよ。
一緒に朝日を見に行こう、ってな。」
ここは九十九里に近いから朝日だ。夕日はもっと館山の方へ行かないと見られない。
「笑えるって?」
「ああ、そう。テキーラは強い酒ってイメージがあって罰ゲームなんかに使われるけど、普通に手に入るテキーラは40度だ。
日本の酒は大体40度になっている。バーボンでもウヰスキーでも、ジンもウォトカだってほとんど40度。ま、ウォトカは94度のもあるけどな。
探せば強い奴はある。ラムとかな。でもテキーラを飲んでスゲェだろ、って言うのは笑えるだろ。」
「マスターの蘊蓄が笑えるよ。長ぇな。」
「あ、ごめん。 やる?ナインボール。」
今時流行らないビリヤード台が店の真ん中を占領している。ポケットだ。
「また、賭けてテキーラ飲ますんだろ。
俺、上手いよポケット。」
目の前にテキーラサンライズが置かれた。ストローで女みたいに飲んだ。
朝日を模したグレナデンシロップが甘い。
ナインボールは圧倒的な俺の一人勝ちだった。順番に指定したポケットに玉を入れていく。最後に9番を指定したポケットに入れて終わり。
ツイてるときもあれば、全くダメな時もある。
「ははっ、俺の一人勝ち!
マスターご褒美は何?」
「ああ、わかったよ。
2階に泊まれ。店閉めるよ。」
外の看板を消してマスターは2階に上がって行った。俺は店のドアに鍵をかけて、ぶら下がったプレートを裏返してクローズにする。
2階はマスターの居住スペースだ。
「お風呂、入んなよ。今お湯溜めてるから。」
マスターは飲食業のせいか綺麗好きで2階も片付いている。
上がって行った俺にいきなり抱きついてくちづけする。イケメンのマスターは嫌な感じなしない。マウスウォッシュの味がするキスだ。
ただのセフレなのに恋人ごっこをしたがるマスターが苦手だ。
ともだちにシェアしよう!

