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第2話 バー トリスタン・ツァラ

「おはよう」 マスターの挨拶。時間帯ガン無視でいつも同じ。 「お疲れ。どう忙しかった?」 「うん、別に。」 俺は飲み物を頼む。 「うーん、なんか笑える奴。」 「テキーラ・サンライズだな。」 「ミックジャガーが好きな奴だろ。笑えるか?」 「うん、微妙だな。サンライズってのはこの辺の若い奴の口説き文句だよ。  一緒に朝日を見に行こう、ってな。」 ここは九十九里に近いから朝日だ。夕日はもっと館山の方へ行かないと見られない。 「笑えるって?」 「ああ、そう。テキーラは強い酒ってイメージがあって罰ゲームなんかに使われるけど、普通に手に入るテキーラは40度だ。  日本の酒は大体40度になっている。バーボンでもウヰスキーでも、ジンもウォトカだってほとんど40度。ま、ウォトカは94度のもあるけどな。  探せば強い奴はある。ラムとかな。でもテキーラを飲んでスゲェだろ、って言うのは笑えるだろ。」 「マスターの蘊蓄が笑えるよ。長ぇな。」 「あ、ごめん。 やる?ナインボール。」 今時流行らないビリヤード台が店の真ん中を占領している。ポケットだ。 「また、賭けてテキーラ飲ますんだろ。 俺、上手いよポケット。」  目の前にテキーラサンライズが置かれた。ストローで女みたいに飲んだ。  朝日を模したグレナデンシロップが甘い。  ナインボールは圧倒的な俺の一人勝ちだった。順番に指定したポケットに玉を入れていく。最後に9番を指定したポケットに入れて終わり。  ツイてるときもあれば、全くダメな時もある。 「ははっ、俺の一人勝ち! マスターご褒美は何?」 「ああ、わかったよ。 2階に泊まれ。店閉めるよ。」  外の看板を消してマスターは2階に上がって行った。俺は店のドアに鍵をかけて、ぶら下がったプレートを裏返してクローズにする。  2階はマスターの居住スペースだ。 「お風呂、入んなよ。今お湯溜めてるから。」 マスターは飲食業のせいか綺麗好きで2階も片付いている。  上がって行った俺にいきなり抱きついてくちづけする。イケメンのマスターは嫌な感じなしない。マウスウォッシュの味がするキスだ。  ただのセフレなのに恋人ごっこをしたがるマスターが苦手だ。

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