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第5話 若?
客の顔を見た。若者だ。何か言いたそうだ。
「今何時ですか?」
「午前3時過ぎた所です。」
もう運転したくない、という。見れば若葉マークが付いていて車も新車だった。
「初めて運転してきたんだ。
親には言わないで出てきたの。
もう、運転したくない。」
「でも、帰るには運転しないとね。」
「怖くなっちゃった。夜の国道、大きなトラックばかり。」
無謀な人だ。
「車置いて帰っちゃダメ? 電車で帰る。」
「今電車走ってないよ。誰かに迎えに来てもらう?」
「うん、仕方ないね。」
家に連絡したようだった。
「今,迎えに来るって言うから、少しここで待たせて。」
一時間ほどして2人乗った車が迎えに来た。
「じゃあ、ありがとう。この人たちはウチの使用人。2人とも運転できるから大丈夫。」
「どうも。ウチの若がご迷惑をおかけしました。」
「若?今時そんな言い方、漫画かよ。」
(なんか変なお客さんだったな。
レクサスなんかで迎えに来た。
いいとこの坊ちゃんか。)
パンクしたのは地味な軽、ミラ、イースだったから好感持てたのに。
(ま、俺とは住む世界が違うな。)
仕事の時間が終わった。完徹は慣れている。
電車のある時間の勤務だったので歩いてきた。
公共交通機関をご利用、ってわけだ。
「なんか変なチビだったな。若、だって。
ヤクザかなんかか?」
いつものルーティンにわずかに変化があると、心が揺れる。
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