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第10話 ゲイカップルとの出会い
しばらく、悶々と過ごした。佐波氏の存在が自分の中であまりにも衝撃的だった。
自己愛の沼に落ち込む。
(佐波氏の好む学生になりたい。
佐波氏はどんなセックスをするのだろう。)
そんな事ばかり考えてしまう。俺のカムアウトに、佐波氏は、さも理解のあるような顔をしていた。ゲイに興味があるのだろうか。
また、佐波氏に会いに来てしまった。今日は病棟にいるという。
初めて入る精神科病棟。うちの大学病院では、実験的に開放病棟を推進しているので、イメージとは大分違った。
暗い閉鎖的な病院を思い描いていた。
「佐波先生、来ちゃった。
おじゃまじゃないですか?」
馴れ馴れしく声をかけた俺に、彼は爽やかに微笑んでくれた。
「ああ、キミは同性愛者だったね。
こちらはゲイカップルだ。
ジョー君と三郎君。えっと、キミは貴也くんだったね。」
「え?そんなにオープンなんですか?」
「こんにちは。
俺たちはここで出会ったんだよ。」
二人、手を繋いでいる。
ジョーと紹介された人は、背が高くシャープな感じのイケメンだった。
「こっちはパートナーの三郎、サブって呼んで。」
サブは小柄でメガネをかけた可愛らしい人だった。仲良さそうで羨ましい。
佐波氏に、小さな声で聞いてみた。
「ここはゲイの人が多いんですか?」
「ははは、そんな事はないよ。
今の所、この二人だけだ。
ゲイは自覚の精神病理ではないからね。」
「はあ、問題はないのですか?」
「病院の外の人より、きちんとしているよ。
分けて語るのはおかしいんだ。
ゲイだから入院しているわけではないよ。」
後で話を聞いて驚いた。サブはすごい読書家で、この病院のライブラリーが気に入って、自主的に入院しているらしい。
こういった病院には珍しく充実したライブラリーがあるのだ。
強迫神経症だったが、主治医からはもう退院の許可が出ているという。
読書に取り憑かれている。
ジョーは、最初、暴れて抑制が必要だったが、今は穏やかだ。
「大量の薬を飲んだんだ。」
向精神薬?
ジョーさんはこのガタイで、暴れたらスタッフがさぞ,大変だっただろう、と恐ろしく思った。
もっと聞きたい事はある。
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