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第19話 病理集団

 厳重に警戒された門を潜り、手入れの行き届いた庭を抜ける。古民家のようなお屋敷の玄関に着いた。 「おい、おまえ、名前も知らないんだよ。」 「ああ、僕は虎ニ。佐波虎ニ。 あんたの知ってる佐波先生の弟だよ。 異母兄弟。」  虎ニと名乗ったパンク野郎は、どことなく佐波氏の面影がある。年は大分離れていそうだが。 「これから父親に会ってもらう。」 と言った。そう言えば、佐波氏は名を龍一と言ったはずだ。龍虎、か。  貴也にとって佐波氏は、もう今では懐かしく思い出す過去の人だった。  広い廊下を歩いて奥座敷に案内された。強面の老人が待っていた。なんだか気圧される。 「まあ、お座りください。 こんな夜中に突然すみませんね。  あなたは龍一の大学の学生だったそうで。」 俺の事は調べがついているのか、居心地の悪い所だ。 「3年前にあなたは大学を辞めてしまわれたそうで。その後の事はご存知ないのでしょうな。」  3年ぶりに口にする佐波氏の名前。この3年間の事は、何も知らない。自分の中で封印していた。 忘れるために大学まで辞めたのだ。 「お恥ずかしい事ですが、私どもの事情を少しお話ししたい。  龍一は長男だ。私の最初の妻の子だ。跡継ぎが生まれた、と大喜びだった。それが私の跡目を継ぐのは嫌だ、と医者になった。それも精神科医だ。ヤクザのためにはならん。  私に逆らいたいのだ。」  佐波氏が医学の道を選んだ時は、この家は大揉めに揉めた。  広域指定暴力団、山辰組系三水会、佐波一家。 龍一の四代目の跡目が決まっていた。  その頃二番目の妻が子を生んだ。20も離れた虎ニには跡継ぎはまだ無理だ。  父親の三代目組長、佐波大門は龍一に期待していた。  まだ小さい頃,最初の妻を追い出して、子供の龍一だけ取り上げた。龍一は母について行きたかったが、どうにもならなかった。 「病理集団」 龍一は精神医学を極めて行く過程で、自分の育った環境は「病理集団」だと気付いた。  父親に酷い制裁を受けて、家を勘当された。 大学からはずっと一人暮らしだ。  コツコツと積み上げた学問が、今や世界の佐波、と称されるほどになった。  俺が知ってるのは、一角の人物の佐波氏だった。立派な精神科医。

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