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第20話 空白の時間

 遅いので泊まっていけ、と言われて甘える事にした。こんな知らない所から真夜中に帰れない。 「貴也さん、軽くお食事はどう? 聞きたい事があるだろうから、一緒に食べよう。」  虎ニは案外気が利く。部屋住みとして、厳しく躾けられてきたのだろう。親子も関係ない。厳しい世界だ。  組の若いもんが用意してくれた食卓に移動した。 「お酒も飲む?」 「いや、初めての家で酔っ払うわけにいかないよ。」 「堅いなぁ。僕も飲めないからいいか。 ご飯持ってくるね。」  美味しそうな魚介料理が並ぶ卓を見て、腹が減っている事に気付いた。 「ここは海の近くか?」 「そう、大洗海岸に近いよ。 釣り金目の煮付け、食べてみて。」 「虎ニが釣ったのか?」 「ううん、これは違う。でもたまに釣りやるよ。 魚も捌ける。」 「すごいな。俺、釣りってやった事ないよ。 佐波氏、じゃなかった兄貴と行ったりしなかったの?」 「僕が生まれた頃、もう兄貴は家にいなかったから。親父が兄貴は死んだと思え、って言ってたし。」 「それで、兄貴に頼まれて俺を見張ってたって言ったな。どう言う事?」 「食べながら話すよ。」  さっきから虎ニは何か言いにくそうに話を先延ばしにしている。 (何か、言いにくい事があるのか? 俺に関係あるのか。俺の片想いだっただけだ。 虎ニが知るわけもない。)

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