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第22話 ヤクザ

(意味がわからない。許し、なのか。 これが、彼の許しなのか?)  あの頃あんなに欲しかったものが、今は色褪せている。 (頭の中だけで、考え過ぎだな。 会ってみたい。もう一度佐波氏の顔を見たい。)  虎ニに 「今夜は泊まりだから、明日なら行ける。 先生にどこに行けばいいか聞いてくれ。」 「貴也、スマホ持ってないの? 兄貴のアドレス教えるよ。 自分で連絡とったら?」 「虎ニは彼女、いないの?」 「ふふふ、それは秘密。 貴也はカッコいいよ。モテるでしょ。」  廊下を歩いていたら初めて人影を見た。どこにいたのだろう。広い屋敷だ。  ここの人は全体に振る舞いが静かだ。気配がしない。 「おはようございます。」  スカッとしたイケメンが挨拶して来た。惚れ惚れするようないい男。ヤクザってのはこんなイケメンがゴロゴロいるのか。 「おはようございます。昨夜は食事をありがとうございました。」 「いえ、お口に合いましたか?」 「すごく美味しかった。」 「あの金目鯛、私が釣って来たんです。」 「すごい。大きな金目鯛。味も良かった。」 虎ニが走って来て 「若松!貴也をとらないで!」 「えっ?何言ってんの。」 虎ニは腕を組んで離さない。 「いいの、いいの。若松見てどう思った?」 「ああ、すごくいい男だね。」 「だからぁ、若松はヤクザだから惚れちゃダメだよ。」 ああ、俺にはわかった。 虎ニはこの男が好きなのだ。 「貴也、送って行くよ。 これからも僕が貴也の足になるから。 いつでも呼んで。」 「ああ、ありがと。それじゃ失礼します。 親分にもよろしく。」 「親分なんて言わないよ。パパは組長。」 (パパって呼んでるのか?) 「若、運転なら私がやりますよ。」 「いいの。車の中は貴也と二人になれる場所なんだから。若松は邪魔しないで。」  若松と呼ばれた人は、車庫まで来てくれた。 「若、くれぐれもお気をつけて。」 身体を二つに折り曲げるようなお辞儀をした。

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