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第23話 三年の月日
次の日から仕事明けで3日間オフだ。
メールを打つとすぐに返事が来た。
以前は、いつも、執筆中か読書中、あるいは仕事中だ、と、中々返事は来なかった。そのメールに速攻で返信があった。
明日の午後、アパートに迎えに行くという内容。俺のアパート、知ってるのか?
疑問に思ったが様子を見る事にした。
眠れない夜を過ごした次の日、先生はあのワーゲンパサートで俺のアパートに来た。
感動の再会、とはならなかった。
「先生、お久しぶりです。
どうしたんですか?俺なんか思い出して。
先生も色々あったと聞いています。」
「ああ、虎ニからだろ。私の弟。
20才も年下だが、可愛い奴だよ。」
「先生の面影がありますね。」
部屋に招き入れて、佐波氏を前に、ぎこちなく世間話のような事を話す俺は、変だと思う。
遠慮がちに先生はハグして来た。
「ああ、貴也の匂いだね。やっと会えた。」
俺は佐波氏の肩を掴んでハグを離した。
「一体どうしたんです?
俺をバカにしてますよね。
先生は俺の心の動きなんか、簡単に把握してるでしょ。御しやすい奴だとでも思ってるんですか?」
「ああ、すまん。私は何かを見失っているらしい。自己分析しても、ろくな事はない。
鬱の沼に落ち込んでいくだけだ。」
佐波氏の独白は、俺のいたあの頃のことばかり。
あの頃の高揚感。学究肌の先生が学問を追求できた時代。それは失われた、若さ、だ。
「あの頃をもう一度、ですか?
先生らしくないイージーな考えですね。」
(どこまで、人を翻弄すれば気が済むんだ。)
俺は思い出した。あの頃の大学には、佐波氏に惚れ込んだ人々がいた事を。
あの先輩たちのサークルもそうだった。
みんな佐波氏のシンパだった。
謎に満ちた学問の神。生き方がシュールレアリスムに思えたのだ。
体制にとらわれない自由な魂を持っている、という錯覚。
私生活を見ればわかったはずだ。
常識に囚われた小市民。
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