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第26話 夏油温泉

 廊下に出て障子を開けた。 湯煙に遮られて山々が見える。標高が高い。 「寒いね。」 「温泉に入ろう。すごく温まるんだ。」  廊下の窓から湯煙に見え隠れする温泉場があった。簡単な缶コーヒーとパンで腹を満たしてから、降りて行った。途中で買った土産物の一口羊羹を一つ隔てた隣の部屋の老夫婦に持って行った。 「しばらく、お世話になります。 これ、甘い物。一つどうぞ。」  老人は嬉しそうに受け取った。 先生はこういう所にそつがない。人の心を慮るのが得意なんだろう、と感心した。  外に出て建物の前の道を少し行くと湯気に覆われた温泉小屋が見えて来た。  タオルを抱えて入って行った。 「混浴なんですね。」 「でも、うら若き女性はいないと思うよ。」  お互いに服を脱いで全裸になって、棚に置いた。ロッカーなどは無い。  結構広い浴槽に手桶で湯を汲んで温度を確かめる。少しぬるい湯を先生の足に掛けた。 「温度、大丈夫ですか?お湯、掛けますよ。」 優しく湯を掛ける。手桶を奪われて,先生に頭から湯をかけられた。 「ぷはーっ、待ってくださいよ。」 「湯に入ろう。」 広い浴槽に入って行った。泉質がヌルヌルして転びそうになった。  先生のがっしりした腕に抱き止められた。滑るので思わず抱きついてしまった。  先生がくちづけしてきた。 「あっ。」  抱きしめられて耳元で囁く。 「ロマンチックじゃないなぁ、初夜なのに。」「えっ?俺、そんなつもりじゃないよ。 ここは無理ですよ。あまりにもオープンすぎる。」 「何、初心(うぶ)な女みたいな事言ってんだよ。犯すぞ。」 「先生、キャラ変わってるよ。」 「おまえと二人きりなのが嬉しいんだ。」 「他にも湯治客がいるよ。落ち着いて、先生。」  風呂の中で抱き合ってヌルヌルした泉質を楽しんだ。  何度もくちづけした。誰も入っては、来ない。湯上がりには有料の浴衣を借りて着た。  温まって暑いくらいだった。 「夕飯は何作ろうか?」  キャンプ飯っぽいのを用意していた。

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