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第31話 日常
こんな経緯でも日常は過ぎて行く。暮らしというものは容赦なくあらゆるものを摩耗させる。
好きだった人と暮らすのは居心地がいい。
朝起きて珈琲を淹れる。ハンドドリップだけど自分の淹れた珈琲は美味い、と思う。
二人で料理を作る。二人で食べる。顔を見つめ合ってするキス。新婚夫婦のようだ。
俺は幸せだった。囚われの身ではなかった。何故か過去形だ。好きだった人。今は?
真綿で首を絞められるように、だんだん苦しくなって来た。
無為な日々。俺の仕事がない。
セックスの回数は減った。龍一はアラフォー世代。衰えるにはまだ早いが、節度はある。
(こんな生活も悪くないな。)
龍一は、父親に呼び出された。勘当は解けたのか。あのヤクザの大親分⁈
強面が勢揃いした屋敷に、二人で呼び出された。以前この屋敷に来た時も、疑問に感じた事。
何故俺が関わるのか?
今はわかる。龍一が俺に執着しているからだ。
あの佐波大門の前に二人で座らされた。
「おまえたちの事はわかっている。
反対する気もないが、一つだけ譲れない事がある。」
大門組長の希望は、跡取りだった。子を作れ、というのだ。
驚くことに子を産んでくれる女性は用意したと言う。その女性と子作りをしろ、と言うのだ。
子供ができるまで、俺とのセックスは禁止。しっかり男の子を生むまでは解放されない。
無事に子供ができたら、俺たちを認める、というのだ。
「父さん、以前結婚していた時も子供には恵まれなかった。出来るまで拘束されるなんて無理に決まってるだろう。
貴也とは片時も離れられないんだ。」
(俺は少し冷却期間を置くのも悪くない、と内心喜んだ。)
「ではおまえたちの事は認める訳にはいかん。
別れろ!」
いきなり無茶なことをいう。
「子作りをするか、別れるか、二つに一つだ。
他に選択肢はない。」
「どっちにしてもしばらく貴也と離れなくてはならないんだね。
私は嫌だ。貴也と離れるくらいなら死んだ方がマシだ。」
頑固さは父親譲りか、龍一も譲らない。今時、跡取りなんて時代錯誤も甚だしい。
ヤクザの常識は、世の中の非常識?かもしれない。病理集団なのだ。ヤクザという病理。社会における必要悪?
大門は折衷案を出して来た。
「三人で暮らすのはどうだ?
子を生んでくれる女とおまえたち三人で。」
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