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第33話 嫌だ。あり得ない

「こんなことってあるか?  龍一はいいの? 俺は嫌だ。 龍一が女を抱くなんて耐えられないよ。 やっぱり、俺たちは別れよう。 子供も作れないんだ。一緒にいる意味がない。 組長も俺が邪魔なんだ。」 抱きしめられた。 「わかりきっていたことだろう、子供の事は。 いらないって思ってた。 親父にはもう一度勘当してもらおう。」 「ヤクザだ。逆らったら死人が出るよ。 俺は身を引く。」  そもそも彼女は何でこんな条件を飲んだんだろう。変な人だ。子供を生むってことは命がけじゃないのか?他人に奪われる子供を生むなんてあり得ない。何かたくらみを感じた。 「きっと子供ができたら龍一と結婚出来るんだよ。そんな約束をしてるんだ。  俺なんか簡単に引き離せるんだ。」 「貴也、疑心暗鬼になってるよ。」 「はん、先生はおめでたいな。人がいいんだね。 あの人とセックスするんでしょ。 受胎するまで何度でも。」  俺は外に飛び出した。 龍一のマンションからどこへも行けない。 何も持ってないことに気づいた。 「ホントに何もない。」 帰る家もない。 いつの間にか外堀を埋められていた。 「ヤクザのやりかたか?汚ねぇな。」  スマホも金もない。戻って龍一から金を借りるしかない。今まで働いて少しは蓄えもあった筈なのに、勝手にアパートを引き払われたからあの部屋にあった物たちは捨てられたのか。  気に入ったCDや本、洋服も何もかも勝手に処分されたのか。考えると腹が立って来た。  どんよりとした気持ちでマンションに帰った。 「おかえりっ。」  嬉しそうな龍一にも腹が立つ。 奥の部屋からあのミチルという女が出て来た。 「あんた、もしかしたら一緒に住むつもりなのか?」 龍一を振り返った。 「しょうがないだろ。いつも一緒にいないと受胎しないっていうから。」  この女はここで、イチャイチャするつもりなのか。そう言えばずいぶん勝手な条件を出していたな。愛のある環境で子供が作りたいとか。つまり龍一と愛し合うのが条件だ。  俺は混乱の極み、だった。龍一はそれを承諾しているのか?  本当に俺の居場所は無くなった。

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