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第34話 寝室を分ける
龍一に俺の私物をどこへやったのか、問い詰めた。
「あれね。向こうの部屋に突っ込んである。
若松が紙袋と段ボール何箱か,持って来たから。
貴也のリュックも車から持って来たよ。」
彼女が勝手に私室として自分の荷物を運び入れた部屋の隣に和室がある。
そこに俺の物が突っ込んであった。リュックの中にスマホが充電が切れたまま入っていた。
財布の中にもキャッシュカードと少し現金も入っていた。
(もう、あのスタンドはやめた事になってるんだな。いきなり辞めてシフトが困っただろうな。
申し訳ない事をした。)
これがヤクザなやり方だ。有無を言わせず事を運ぶ。相手の事なんかお構い無しだ。
俺はまた、猛烈に腹が立って来た。そしてそれを唯々諾々と受け入れているようなのが許せない。もちろん龍一が、だ。
夜になった。俺は出て行くタイミングを逸した。
「夕食を作りました。一緒に食べませんか。」
ミチルさんが声をかけて来た。
テーブルにはまるで新婚のようなセッティングがされていた。
並ぶ夫婦茶碗。俺の分は来客用の食器だ。揃いの湯呑みと客用の茶器にほうじ茶が注がれる。
ほうじ茶は龍一の好みだ。
おひたしや煮物、魚料理。男の胃袋を掴む献立だ。あざとさが鼻につく。
「ベッドルームに私の枕を運んでおきました。
貴也さんは和室でいいですね。」
「何を勝手な事を。」言ってるんだ、と怒鳴ろうとしたが、龍一の顔を見て萎えた。嬉しそうなのだ。
「龍一は、俺の気持ちがわからないの?」
「ああ、単なるジェラシーだな。
そんなものは克服しないと,次のフェーズに行けないよ。」
「はっ、精神分析の専門家は俺の心が読めるんだ。ご立派な事で。」
明日は住む所を見つけてここを出て行こうと切実に思った。
大門組長の思惑通りに事が運んでいるのは、忌々しいが仕方ない。
和室に客用の布団を敷いて眠ろうと努力した。
程なく、バタバタと騒がしい物音がして、
「無理だ!」
と叫ぶ龍一の声がした。いきなり襖を開けて龍一が飛び込んできた。
「君は前の妻に話を聞いたって言ったな。
何を聞いて来たんだ。
私が女性恐怖症なのを聞かなかったのか?」
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