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第35話 女性恐怖症
(そんな病気があるんだ?)
「君は朝になったら、ここを出て行ってくれ。
手伝いの者を呼ぶから、急いで荷造りをして。」
龍一は俺に抱きついて震えている。布団の上に座って肩を抱いてなだめた。
「龍一はホントに不能なんですね。」
「女性にだけだ。」
「SNSで拡散するわ。恥をかかされた。
親にだって顔向け出来ない。帰れないわ。
訴えてやる!」
彼女の話はこうだ。
大金持ちで医者で大学教授の佐波龍一の元へ嫁ぐ事が決まった、と親には言ったという。
子供を欲しがっているから先に既成事実を作るために住み込む、と言って家を出て来たというのだ。
大門組長は支度金、というか、結納として、目の前に帯封のついた束を10個積み上げたそうだ。
一千万。
無事に男の子が生まれたらもう一千万、渡す約束だったそうだ。そして嫁として家に入れる。
龍一が寄り付かなくても、家に入ってしまえば嫁だ。大門が認めれば嫁なのだ。
子育てをしながら龍一が帰って来るのを待つ、という計画だったそうだ。
親公認の押しかけ女房。
俺が別れなければ、始末されたかもしれない。
俺がいなくなれば、龍一も諦めて家に帰って来るだろう、というのが大門組長の見通しだった。
泣きながらミチルさんは言う。
「この先生は何も出来なかったの。子作りはおろか、セックスの前戯も出来なかったのよ。
健康で若さに溢れたこの私を抱くこともできなかった。前の奥さんも指一本触れてはもらえなかったそうよ。
みんなに言いふらす。医者も出来なくさせる。
こんなホモには誰も診察なんかして欲しくない。
気持ち悪いんだよ。覚えておきな!」
なんだか、ずいぶん下品な女になっている。
「ミチルさん、もういいよ。気の済むまで言いふらしておくれ。
でも、君が自分を傷つけてはいけない。」
泣きじゃくるミチルさんに先生は優しく言った。
どこかに電話してると思ったら、若松が数人の若いもんを連れてやって来た。
彼女を連れ出して、車に乗せているのが見えた。
「先生!先生はわかっていたんでしょう。
人の心を見抜くのは専門なんだから。
こうなることはわかってたんだね。
悪趣味だ。最低だな。」
「貴也、許してくれ。」
「こんな茶番はたくさんだ!
組長はきっと許さないよ。俺、殺されるかもしれない。」
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