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第37話 怒り

「龍一さん急いでどこかに行ってください。 組長の怒りが収まりません。」  若松が電話をよこした。 「貴也、逃げよう。親父が怒っているらしい。 若松が連絡寄越すなんてよっぽどだ。」  車に俺たちのリュックを積み込んで、とにかく出かけた。 「どこに行く?」 「とりあえず、親父のところに行く。」 「えっ?ヤバいんじゃないの?」 「話をしたい。」  あのお屋敷に着いた。まさか俺たちが乗り込んでくるとは思っていないだろう。  奥座敷に入っていった。若松が青い顔をして止めに入ったが、龍一は構わず部屋に入った。 「この無礼者が。来たか。」  座卓を囲んで座った。 「話がしたいのだろう、話してみろ。」 「実を言えば以前の結婚でも、性生活がうまく行っていなかったのです。  前の妻は多分処女です。未だに、です。 私は彼女と性行為が出来なかった。  父さん,無理です。女性を触れないのです。」 龍一は今更だ、と言う顔をして話した。 「子供を作るなんて無理です。 私に期待しないで。虎ニに話してみたら?」  そばに控えている若松が一瞬ビクッとした。 (虎ニと愛し合っている、というのは本当なんだな。) 「若頭の柳生に跡目を取らせればいいじゃないですか。ヤクザは世襲制と決まっているわけじゃない。親父に忠誠を誓っている子分なら誰でもいいんじゃないでしょうか?」 「確かにそうだ。龍一の言う通りだ、 とでも言うと思ったか!」  豹変した父親は床の間に飾ってあった日本刀一振りを手に取った。  有名な刀。鬼神丸国重だと言われているが、誰も真偽の程はわからない。新撰組、斎藤一のものだと大門組長が大切に飾っている刀を取り上げた。もちろん刃は立ててある。  警察に知れれば銃刀法違反で捕まる代物だ。 それを今振り上げている。  大門は、若い頃から居合いを極めている猛者だ。切先が当たれば、片腕など吹っ飛ぶだろう。 「やめてくれ!」  龍一を庇って貴也が飛び出した。 一瞬肩に当たって服が裂けた。袖がひらひらしている。中の腕は大丈夫のようだ。  手を出して貴也は確認している。布が切れただけのようだ。 「鬼神丸を汚してしまった。」 「貴也を切って汚れたですって? ふざけるんじゃねえよ。」

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