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第38話 怒り 2

 龍一の剣幕がすごい。ヤクザの家に生まれ育ってそれに抵抗して来たけれど、その身体に流れるのはまさしくヤクザの血、か。  さすが居合いの達人、一振りした後の鬼神丸は見事に鞘に納まり、床の間に返された。  その立ち居振る舞いは惚れ惚れするものだった。 「見事だな、親父。 私の愛する人に向けた刃(やいば)は己(おのれ)に返ってくるぞ。覚えておけよ。  貴也は私の命だ。」 「去(い)ね!ワシの目の前から去れ。」 立ち上がって貴也の手を取り龍一は堂々と歩いた。居並ぶヤクザ者たちが見ている中をゆっくり歩いた。  中には手にドスを持っている者もいた。 典型的なヤクザ集団。龍一が死ぬほど嫌がっていた組織の者たち。 「龍一さん、お気をつけて。」  見送られてパサートに乗り込んだ。俺はなんとか自分の足で歩いたが、さっきは腰が抜けそうだった。  車に乗って 「さあ、どこへ行こうか。」 「大丈夫なの?」 「ああ、あれが親父のケジメだったろう。 シャツを買ってやる。」 袖がひらひらと破れて風に舞う。 「笑える。」 龍一がポツンとつぶやいた。  帰ってきた龍一のマンション。 「今日は長い一日だった。」 行く当ても無くなった。俺は無職だった。。  こんな虚しい位置にいる自分を思うと笑える。 龍一は何を考えているのだろう。  立派な学者だったのに、学問に未練はないのか。こんな寄る辺ない気持ちになっている。 「とりあえずセックスでもするか?」 「いやだよ、そんな気になれない。」 ふっと笑う龍一がかっこよく見える。 「私は人の頭を覗くことに興味があった。それは今でも変わらない。  脳の構造は宇宙だ。身体の営みも宇宙に共鳴している。不思議だろう。  貴也の脳にも宇宙に繋がる営みがあるんだ。」 「先生、優しい言い方だね。 不出来な学生でごめん。」 また、深いくちづけを交わした。

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