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第39話 二人
逃げも隠れもしない。俺と龍一の暮らしが始まった。もう子供を作る、と言う呪縛からも逃れられたと思う。
虎ニが訪ねて来た。
「よく、ここがわかったな。」
「兄貴と貴也の事はなんでも知ってるよ。」
以前探偵を使って俺のことを調べたって言ってたのを思い出した。
「もうヤクザの報復は恐れなくていいんだろ。
なんか用か。」
「用がなかったら来ちゃダメ?」
「う、そんな事はないな。」
「会いたかったんだ、貴也に。」
奥から龍一が出て来た。
「私の嫁に会いたかったって?
聞き捨てならないな。」
「あ、龍一、いたのか。」
「おまえ、歩いて来たのか?」
「外に車が待ってる。若松が運転して来た。」
「そうか、私も若松に会いたいなぁ。
呼んできてくれないか。」
「ヤダよ。龍一に取られるから。」
龍一は笑っていた。あんな修羅場を静観していた肝の据わった若松だった。龍一は一目置いている。
「虎ニの報告書、読ませてもらったよ。
大学を辞めてからの貴也の私生活、しっかり調べられてたな。」
「龍一はストーカーの素質があるね。
もう、時効だろ。」
虎ニは龍一に頼まれて貴也の身辺を調べるうちに、貴也に興味を持った。
時にはプロの探偵に頼んで貴也という人間を探った。調べれば調べるほど、貴也に惹かれていく自分に戸惑った。
こんな事は龍一には知られたくない。
「若松呼ぶ?」
「いいよ、また今度で。
ゆっくり飯でも食おう、って伝えてくれ。」
虎ニは帰って行った。
「龍一は俺の事、全部知ってたんだね。」
(大学を辞めて、バイトをしながら、ハッテン場に通った事。あのバーの事も知ってるんだな。)
龍一は俺を優しく抱き寄せて
「あのバーにはちょっと嫉妬した。
貴也を開発したのはあのマスターだ、と思うと
ジェラシーで心がチリチリする。」
確かに俺はあのマスターに身体を開かれて、男色を教え込まれた。
ゲイのセックスに溺れていた事もある。
「貴也の身体を作った男。私も興味あるよ。」
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