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第45話 泥沼
組に知られたら破門だ。もちろんそれだけでは済まない。
「千尋は大丈夫け?
わたしたち、秋田のヤクザに追いかけられて逃げて来たんだ。千尋もヤクザでしょ。」
千尋は弟の事も気になっていた。彼女より二才年下だという。16才か。守ってやりたい。
部屋住みにプライバシーはない。
隠れて女と会った。女は仕事を辞めない。会うたびに狂おしい思いにケンカが絶えない。
「借金が膨らんでるの。もう、どうにもならねえ。千尋、組の金、何とかならねぇべか?」
ヤクザは悪どいシノギで金を持ってると誰かに吹き込まれたのか。
もう大麻も売るほどは手に入らない。インド人が検挙されたのだ。
「なんでいつも金が無いんだよ。
おまえの親父は何やってんだ!」
「父ちゃんの事はだまっててけろ。」
その腕にタバコを押し付けられた痕があった。
「根性焼き」なら千尋にもある。ガキの頃の恥ずかしい勲章だ。
女の腕にあるのは新しいものだった。
「おまえ、親父にやられたのか?」
「父ちゃんにやられてんのはタバコだけじゃねぇ。」
いつもセックスを強要されているという。
借金は減らない。パチンコを止めないから。
もうデリヘルじゃ追いつかなくて本番専門のウリをやらされていると言う。
「父ちゃんに犯されて客を取らされてる。」
「おふくろは?」
「母ちゃんは殴られて黙ってるよ。
あいつは母ちゃんの男。
本当の父ちゃんじゃねぇから。」
棄てられないように母親はビクビクしているそうだ。
「16才なら売れんだろ。
男が好きな客もいるんだよ。」
弟も売られそうになって何とか逃げたと言う。
父親はヤクザなのか。逃げている割に顔が利く。
「節子は体で稼げる。弟の新一も売り飛ばす。
ババァは売れねえな。
秋田から連れて逃げてやったどもとんだお荷物だべよ。すかたねえな。」
女は節子と言った。弟は新一。古風な名前。
この父親は何故か、東京の半グレに顔が利く。
東北山辰会からM会を通じて破門状が出ている。
千尋は節子の体に溺れた。男を虜にする。
初めの頃のイタイケな守ってやりたい女はどこへ消えたのか。
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