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第47話 極道
また、若頭の柳生さんの蹴りが飛んだ。
ドゴッ。千尋の身体が吹っ飛んだ。
本物のヤクザだ。喧嘩上等、のガキとは違う。
蹴り殺すことも厭わない、半端ない蹴りだった。
「東北秋田のM会に示しがつかねえんだよ。
昔だったら、やつの首級を差し出す所だ。」
「首級って?」
「頭だよ。首から上。
組長の居合い切りで一思いにやってもらうか?
そのためにいつもポン刀(日本刀)が飾ってあんだよ。」
千尋はゾッとした。本当に洒落にならない刀が飾ってあった。刃を立て、たまに組長が巻藁や青竹をスパッと切っているのを見たことがある。
一刀両断。凄い切れ味だった。これで首を刎ねてもらうのは、案外楽かも知れない。
切腹するなら、大門組長に介錯を頼みたいものだ、などと一瞬考えてしまった。
「どうしてM会はあんな小物に躍起になってるんです?」
「組長の女を連れて逃げたんだよ。
節子ってのは合田一家の組長がマジ惚れして本家に入れた女だそうだ。
これがどうしようもないビッチで、母親の男とも出来てるんだと。」
合田一家ではその男を殺すって息巻いて、ヒットマンを差し向ける許可を取ってきた。
「弟と名乗る男も節子の彼氏だって言うじゃねぇか。」
「千尋はとんだハニトラに引っかかったな。」
龍一が身体を張って千尋の目を覚まさせたって事だった。
話を聞いて貴也は
「なんだ。龍一とマスターがセフレだって言うから焦ったよ。一度だけだったんだ。」
「それでも、龍一のテクは凄かったぞ。
それ以来、女は抱けなくなったんだ。」
「もう、よりを戻すとかはない?
龍一は凄く束縛野郎なんだよ。」
「羨ましいな。龍一になら束縛されたかった。」
龍一は笑っている。
きっと人の心が手に取るようにわかるんだろう。精神科の医者は嫌な奴、だ。
「しかし、ヤクザってのは単細胞の集まりだな。
すぐ頭に血が上る。」
その後、節子は香港の娼館へ送られた。片方の足首を切り落とされて。その性技に世界の富豪から引っ張りだこ、だそうだ。
父親は溶かされてアスファルトになったとか?
気になるのは弟だ。新宿でナンバーワンホストに、なったとかならないとか?
母親は片足のない節子の世話をしているそうだ。
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