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第48話 そして
俺はヤクザをよく知らないが、好きにはなれない人たちだと思う。
きっといつもヒリヒリする刺激が欲しいんだろう。義理だ、人情だ、と言って男同士傷を舐め合っている集団。
龍一ほどの頭脳の持ち主なら、ウンザリするはずだ。それでも血は水よりも濃い、のだろうか?
俺はそんな情、みたいなものから逃げ出したかったんだ。親とも縁が切れている。
二人の部屋でソファに座ってそんな事を話した。
「私は貴也に酷い事をしたという自覚はあるよ。
勝手に仕事を取り上げて、部屋まで引き払って。
貴也の好きな場所も奪ってしまったね。」
「ああ、あのバーなら別にいいんだ。
マスターは本当にただのセフレだったから。」
「私は学問を究めたつもりでも、現実は子供っぽい束縛野郎だ。
分離不安を未だに拗らせている。」
「分離不安?普通は母親に、だろう。」
「私の場合は恋人に、だ。
こんなに執着したのは貴也だけだ。
こんなこと言うと貴也は逃げ出したくなるんだろう。」
龍一に抱かれて肩に頭を預ける。
「こんなに居心地がいいのは、大切だよ。」
「なぜ、愛は冷めていくのか。
何でもそうだ。
初めは嬉しいのに手に入れると色褪せてくる。
あんなに好きだったものが輝きを失う。」
マスターはあのハニートラップの後、イギリスに旅立ってウヰスキー作りを修業してきた。それは彼にとっても、いいことだっただろう。
俺と出会ったのも不思議だ。縁があったのか。俺はその前からずっと叶わぬ恋を抱えていた。
龍一を愛していた。諦めて何もかも捨てたつもりになっていた。物凄くガキだと思う。
今は信じられない事に龍一がいる。こうして過ごす二人の時間が好きだ。
「貴也、キスして。」
そばに行くと頭を抱えられてくちづけをする。
「ふんふん。」
「何?」
ゆっくりするのがいい。ゆっくり唇の感触を確かめるようなキス。
龍一の手が俺のシャツのボタンを外して行く。
ソファに押し倒されてゆっくり脱がされる。
ジーパンのファスナーを下ろす。慣れた手つき。俺も龍一の緩い部屋着に簡単に手を入れる。
半分脱げた服の間から素肌を弄られるのが気持ちいい。
髪をかきあげられて鼻にキス。頬にもキス。
「女にするみたい。」
「した事あるのか、女に?」
その口を塞ぐ。激しいキス。
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