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第53話 妹
朝、目覚めて隣に眠っている男がいる。
ずっと好きだった男。人のものだと諦めていた。
今はこの手の中にいる。俺の男。
人のものを欲しがってはいけません、って子供の頃から戒められていた。みんなそうだろ?
俺はいつだって控えめだった。親にわがままを言った事はない。沙織という妹がいる。
いつも俺のものを欲しがる。泣いて騒いで、結局諦めさせられるのは俺だった。
「お兄ちゃんでしょ。妹に譲りなさい。」
いつの頃からか、もう俺は何も言わなくなった。欲しいものが手に入った事はない。
どんなものでも俺が持てば欲しがる。俺が欲しいと思うものはきっと妹が手に入れる。
中学の頃好きだった男。初めて意識した男。
彼は何故か俺と仲良くしてくれた。俺に自覚は無かった。これが恋愛感情だという自覚。
妹が泣いて俺に言った。
「私、アキラくんが好きなの。
お兄ちゃんの親友でしょ。私にちょうだい。」
俺はアキラの事を友達だ、と思っていた。
ウチに遊びに来ると俺の部屋でいつも何となく過ごす。漫画やアニメの事、その時ハマっているゲーム。二人でやっていると時間を忘れる。俺はアキラが好きだった。
一緒にいるだけで楽しい。何も気を使わないで自然体でいられる。アキラも同じ気持ちだと思っていた。
「貴也は俺の親友だよ。」
中学生の青臭い言い方。親友とかすぐに言ってしまう。そして進路の事を話すようになった。
「貴也は頭がいいからT大だろ。
俺は神学の方に進みたいよ。」
とりあえず同じ高校に行こうと言っていた。
初めてキスした相手もアキラだった。
どんなものか試して見たかった。
アキラがどんな気持ちか、なんてわかるはずもなかった。妹に見られていた。
「お兄ちゃん、ホモなの?」
後で言われた。思春期の子供にはショックだっただろう。俺はそんなに深く考えずにした事だった。なんで妹は勝ち誇ったように言うのか?
「ただの友達だよ。キスは練習。ただの練習。」
翌日、学校では俺たちがホモだ、とみんなの話題になっていた。妹が言いふらしている。
中学生だ。興味本位に噂は広がる。
アキラは学校に来なくなった。
「沙織、アキラが不登校になったよ。
おまえのせいだ。もう泣いても許さないよ。
あんな噂をばらまいて。
おまえは一体何がしたいんだよ⁈」
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