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第54話 牧師の息子
アキラは牧師の息子だった。幼い頃から神に触れ、アキラ自身は清貧を貫くカトリックに憧れていた。そんな自分を律するアキラを悪の道に引き摺り込んだのは,俺?
「純粋な友情のキスは神に背くものではないよ。」
アキラの正論だった。俺はそんなアキラが好きだった。
(アキラは綺麗な人なんだ。顔も心も綺麗だ。)
俺たちがまるで汚いホモだ、という噂。それを流したのは俺の妹。
「もう、ウンザリだ。沙織とは縁を切りたい。
どうしたらいい?」
アキラに会いに行った。牧師の父上が話をしてくれた。
「貴也くん、アキラは君に感謝してるよ。
でも、まだ自分でどうしていいのかわからないんだ。君たちは同性愛者ではないんだろう?」
「わかりません。自覚はないです。同性愛者ってなんですか?」
知らないうちに周りがいやらしい憶測で固まって行った。
家では妹が親に泣きついて
「私、お兄ちゃんにイタズラされてたの。ずっと。嫌だったのに体を触るのを止めない。」
「嘘をつくなよ!」
俺は父親に殴られた。父親は妹の話を信じたのだ。
「おまえはホモだっていう噂がある。
自分の妹にイタズラするなんて。
異常な性欲を持て余してるのか?
ウチの恥だ。出ていけ。
そして変な施設に入れられた。
成績は良かったから学習主体の厳しい私塾だった。父親は世間体を気にする人だった。
「私を裏切った。おまえにはがっかりだ。」
その全寮制の私塾ではマンツーマンの教師がついた。そいつの異常な執着心。
(人生はあっという間に180度変わってしまうんだな。)
ばあちゃんの言う「元本の無明」の言葉を理解した。
毎日が勉強漬けだった。そして多分にホモっ気
のある教師に変な事を教えられた。
ギリギリセクハラではないが それは精神を削る日々だった。その特殊な環境で高校を卒業した。そこを出られたのはT大に合格した時だった。
父親はひどく喜んだ。受験に失敗して偏差値の低い高校に進んだ妹は父から見放されて放任されていた。
「お兄ちゃんを恨んでやる!」
家に戻るとそう言われた。
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