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第56話 アキラのこと

 俺が全寮制の私塾に入れられたことでアキラとは疎遠になっていた。  アキラはどうしただろう。一緒の高校に行こうと約束したのに果たせなかった。  俺は誰にも連絡が出来なかった。全くの隔離状態だった。あの繊細なアキラは、ホモの噂を流されてどんな気持ちだったろう。  久しぶりにアキラの父上の教会に行ってみた。 「ご無沙汰しています。中学の時、アキラくんと同じ学校だった貴也です。  アキラくんに会いたいのですが。」 「ああ、久しぶりだ。今は大学生かい?」  アキラも大学生になっていた。ミッション系の神学部のある大学で学んでいるという。 「私はプロテスタントだからカトリックのアキラとは袂を分つ事になった。キミは哲学科だったね。アキラは原理主義だ。頭が硬い。」 「会えませんか?」 「修道院に入りたいと言っていた。 人間は罪深い、と。キミに会おうとするかな。」 牧師の父上は連絡先の書かれた紙をくれた。 「J大だ。行くかい?彼の心を乱しに。」 「えっ?」  J大は俺のアパートから近かった。アキラも割と近くに住んでいた。  四谷で待ち合わせした。 懐かしいその顔を見て一気に思いが溢れてきた。 「アキラ、元気だった?」 「うん、何年ぶりかな。」  アキラに手を取られた。握手するのか。 「俺のアパートに行くかい?」 「近いの?」 「坂の下だよ。」  学習院初等科の後ろをぐるっと回って若葉町に歩いて行った。一気に下町風情になる。  アパートに案内した。 部屋に入るとアキラは抱きついて来た。泣いている。受け止めて抱きしめると 「貴也、神はいないんだよ。神なんかいないんだ。」  泣きながら、うわずった声を上げて抱きついてくる。ベッドの端に腰掛けてお互いを抱きしめた。 「アキラ、変節したのか⁈」

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