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第57話 アキラの神

 背中をさすって宥めてやる。 「どうしたんだよ、いきなり。」 「俺、ずっと貴也が好きだった。 沙織ちゃんの言うとおり。 俺は同性愛的に貴也が好きだったんだ。  寂しかった。離れてもう三年以上だよね。」 アキラは俺が好きだ、と何度も言った。 神の教えに背いている、と。  神は快楽を許さない。許されるのは祈りの中で得られる高揚感だけだ。 「男を愛してはいけないんだ。 一日も忘れる事は無かった。 貴也をずっとこの手に抱きしめたかった。 神はお許しにならないだろう。」  夢の中で何度も俺を汚した、と言う。 健康な若い男だ。性欲は当たり前の事だろう。  いくら慰めても聞かない。カトリックは避妊をしたり、ゴムをつけて精液を無駄にしてはいけないそうだ。 「何度も何度も貴也を思って自慰をしたんだ。」 そしていつも罪悪感に塗れてのたうち回ったそうだ。若さでいつも性欲に負ける。自慰は罪なのに。 (アキラは誰かに肯定してもらわないと、自己評価が低いままだな。) 「久しぶりに会っていきなりだけど、 俺とセックスするか?」  抱きしめてくちづけした。丁寧に、何度も。 「神様はそんなに、分からず屋では無いよ。」  服を脱いで一緒にシャワーを浴びた。 「アキラはした事あるのか?」 「うんん、、」 (あるんだ⁈) 「池袋のハッテン場で経験した。」 「アキラァ〜!」  神様に謝りながら初体験をしたらしい。 意外と俺たち、近くに住んでたのにすれ違いだったようだ。 「アキラはどっち?受け?攻め?」  そんな事を聞く羽目になるとは、何だか笑ってしまう。グッと肩を抱かれて 「俺が攻め、でもいいか?」 アキラは言った。 「俺、初めてなんだ。後ろバージン。 女も知らない。」  二人で吹き出してしまった。お互いに若かった。さっきまでの悲壮感は何処かに消えた。 「愛が全てだ。神はお許しになるよ。」  あの私塾で教師にマンツーマンでイタズラされた。後孔は硬く無いと思う。いろいろなオモチャで弄ばれた高校時代。何事も経験だ、と乗り越えた俺は案外神経が図太い。  思い出した。俺の初めて、を捧げたのはこの時で、アキラに、だった。  

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