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第58話 傲慢

 意外だった。アキラは自分の欲望に忠実だったんだ。彼が神に縛られてると思っていたのは俺の勝手な思い込みだった。  俺よりも先に童貞を捨てた。羨ましいような悔しいような。  今となってはどうでもいい事かもしれない。 龍一は理解を示してくれた。 「で、今はもう過去の人なのかい?」 「アキラの事?」 「そう、大学を経て、貴也も色々あっただろう。 私とこうしているのも不思議だ。  貴也は不本意だったのか?」 「龍一の事は大切だよ。でもこれだけは言っておきたい。  アキラは、、もういないんだ。」  あの日結ばれたと思っていた。アキラと俺。 「アキラには葛藤があったんだ。あまりにも明るくて気がつかなかった。」  アキラは、自分が許せない、自分で作った縛りに身動き出来なくなっていたんだ。 「龍一みたいな人がそばにいてくれたら良かったな。ドクターが必要だった。  神の事はわからない。今でもカトリックの厳しさは理解できない。矛盾だらけだ。  神は救ってくれないのか?と。 神の副業は悪魔、だ。」 「面白い事を言うね。二律背反。 人間は矛盾な生き物だよ。  カトリックでは、同性愛よりもっといけないのは、自死、じゃないのか。」 「わからない。今でもわからないから、涙を流せない。悲しくないんだ。今でも探してる。」  龍一に肩を抱かれて安心している自分が許せない。 「平気で他の人を好きになる自分が。」 「それで大学も辞めてしまったんだね。」 「龍一まで辞める事は無かったのに。」 「たまたま私も行き詰まってたんだ。 あんな家庭環境もあったしね。  あの頃は、ただひたすら貴也が欲しかった。」 お互いに顔を見つめて深いくちづけをした。 「ユングは偶然を認めない。 みんな深層心理に刻まれている、と考えた。  ちょっと仏陀の言葉に似ている。」 貴也は、今さら古い記憶を思い出した事に、何か因縁を感じた。 「それで、妹さんやご両親はお元気なのか?」 「ええ、二度と家には帰りたくないと思っている。関わりになりたくないよ。」 「ヤクザよりマシだろ。」 「ヤクザの方がマシだ。」

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