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第59話 忘れた
人はなぜ、トラウマを持つのか。傷つけられてその思いから逃れられないのか。
貴也は自分の事を思い出す。
昔は子供がイタズラされることも多かった。ある意味、通過儀礼のようなものか?
貴也が子供の頃、一緒になって遊ぶ近所の子供の集団があった。みんな4.5才だったか。その中に少し頭のおかしい男がいた。今なら精神障害者だとわかるが、その頃はその男が怖くて仕方なかった。そいつは勇気、と呼ばれていた。
俺たちより少し年上の酒屋の息子が仕切っていた。としちゃんと呼ばれていた。としちゃんは勇気を使って他の子供たちにイタズラさせるのだ。
としちゃんは父親の皮のベルトを使って鞭のように叩いてくる。としちゃん自身がいつもそれで叩かれて,手や足がみみず腫れになっていた。
おぞましくて、怖くて、でも逃げられない。
勇気はもう大人の大きい身体で、いつもパンツを下ろして赤黒い逸物を勃たせている。
みんな順番に餌食になっていた。泣き叫んでものがれられない。
口に無理矢理咥えさせられて、吐いた。
子供の力では逃げられない。勇気が飽きるまで身体中、嬲られるのだ。
俺たちが幼稚園に入る頃、勇気はいなくなった。どこかの施設に入ったと言う噂だった。
狭い町でみんな同じ小中学校に進んだ。中学生になったある日、酒屋の息子、としちゃんが、体育館の裏に呼び出されて、ボコボコにされた。
それまでみんな耐えていたのだ。その時の子供たちは、口をつぐんだ。
イタズラされた事をひた隠しにした。
イタズラの内容はみんな違うらしく、女の子は何かを突っ込まれたらしい。
「ちーちゃんは股から血ィ流してた。
おばさんが病院に連れて行ったはずだ。」
ちーちゃんは嫁に行けない、と噂がたった。
事件にもならず、田舎の住民は見ぬふりをした。子供たちも誰一人、話を蒸し返す事は無かった。
貴也はとしちゃんと勇気を殺したい、とずっと思っていた。誰にも言えなかった。
「子供が大人になる間には様々な通過儀礼があるんだ。俺はそう思って諦めていた。
あまり、感動しない子供になっていたと思う。
龍一が俺の感情を呼び覚ましてくれたのかもしれない。」
龍一は静かに話を聞いてくれた。
「その酒屋の息子、ヤバいな。
どんな大人になってるんだろう。」
「今だったらタダじゃおかないよ。許せない。」
「そんなガキがどこにでもいたなぁ。」
気付かないうちにトラウマになっている。
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