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第63話 仕事
手を握って眠っていた。子供のようにしっかりと掴まっている。
うつ伏せになって龍一の腕に抱きついて眠ったようだった。
横を向いて顔を見せる龍一の端正な面差しにドキドキしている。
「目が覚めたかい?
また、裸で眠ってしまったね。」
「暖かくて気持ちいいよ。」
首に抱きつく。
両手で抱きかかえられて上に乗せられる。
「どうしたの?重いでしょ。」
「大丈夫、全部私のものだ。」
一糸まとわぬ裸で抱き合って眠るのは気持ちがいい。胸毛がクッションになる。
「ふふ、龍一の胸、気持ちいいよ。」
頬を擦り寄せる。
「不思議だなぁ。龍一だと嬉しいんだ。
嫌いなやつだとゾッとする。」
貴也はこの気持ちがいつか冷めるのを恐れている。冷めるどころか嫌悪に変わる日が来るかもしれない。この頃、そう言う事に神経質になっている。
(誰かとおしゃべりしたい。恋バナとか女の子と話したいな。)
しばらく龍一以外の人と話していない。息が詰まりそうだ、と急に思うようになった。
「俺、仕事がしたい。接客がいいな。
今まで人嫌いで通してきたけれど、この頃は人恋しいんだ。」
龍一は気付いていた。貴也は二人でいる事に飽きて来たらしい。
親がヤクザだとかいろいろなドラマがあったが、そろそろ現実が見えて来たのだろう。
日常生活にそんなにドラマは多くない。
貴也のトラウマ、子供の頃の「勇気」にいたずらされた事。タチが悪いのは、障碍者の「勇気」につけ込んで暴力で命令していた酒屋の息子、「としちゃん」だった。
貴也はおぞましい存在として「としちゃん」を捉えている。が、そのおぞましさがいつ、「龍一」に向けられるか、と恐れる。
「いつも一緒にいるから飽きられてしまうんだな。貴也は何がしたいんだ?」
(人と関わりたい。なんかアルバイトでもいい。)
「カフェとかで働くのは、どう?」
貴也は二人きりの生活から逃げ出したくなっている。
「珈琲が好きだったね。」
「ほうじ茶でもいいよ。」
「じゃあ、店を作るか。」
「すぐ,そんなことを言う。
俺は誰かと一緒に仕事がしたいんだ。
龍一じゃダメだよ。」
「浮気したいんだな。」
「龍一にしてはツマラナイ事言うね。」
飲食なら組関係でやってる、と言われた。
渋々話をしに行く。
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