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第64話 古民家
虎ニに聞く。虎ニは表向き、下っ端で組の部屋住みだ。組のシノギを手伝っている。
「ウチの組の本業は,水商売です。
この辺りの風俗やクラブ、飲食なんかを牛耳っているのは佐波一家ですよ。」
地方都市の水商売の利権を握っている。
虎ニが若松を連れて来てくれた。
「すみません、もう身内に関わるのは嫌なんだけど、飲食業は素人なもんで。」
身の縮む思いで若松に頼った。龍一は、構わない、と言う。意外だった。ヤクザとは関わりたくないんだ、と思っていたのに。
「新しくカフェをオープンしますか?
一軒、居抜きで空いてる物件があるのですが。」
組長は若松に絶大な信頼を置いているようだ。虎ニと愛し合っているなら身内だ、と言い出した。跡目を虎ニと若松に任せる、と言い出した。
若頭の柳生が黙っていないだろう。柳生は組長の子飼いだ。長い間組を支えて来た。若松はその舎弟だ。
そんな人事は血を見る事になる。
「また、親父のわがままが始まった。
人を好きなように操れる、とでも思っているのか。」
柳生は今まで組を盛り上げて、下積みから支えて来た信頼できる男だ。
一足飛びに虎ニの相手だから、と舎弟を引き上げるのはスジが違う。
「めんどくさいなぁ。
貴也にカフェを一軒やらせてくれればいいんだよ。跡目争いに巻き込まないでくれ。」
空いていると言うカフェ候補の物件を見に行った。街中のビルの一角だった。あまり、ピンと来ない。それより途中で見かけた寄棟の古民家に惹かれた。
広い敷地に生垣で囲まれて建っている古民家。
長屋門がある。意外と手入れが行き届いているが、空き家のようだ。
「龍一、この家は空いてるのかな?」
若松が渋い顔をしている。
「この家は最近まで人が住んでいたんですが、
連れ合いに死なれて爺様が一人になって息子の所に引っ越したんで、今は空き家です。
売りに出てるんだけど、
爺様が頑固で条件が厳しい。」
大切に暮らしていたのだろう。まだ、綺麗な家だ。庭も手入れが行き届いている。
このあたりも昨今は空き家が増えていると言う。
「いいなぁ。俺、日本茶のカフェもいいと思うんだよ。龍一がほうじ茶好きだろ。
ここはイメージにピッタリだ。
お爺さんはどんな条件なの?」
「ヤクザもんには、売らない、貸さない、と言ってます。」
「えっ?」
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