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第66話 軍鶏

 昔はこの辺りの土地をほとんど持っていたというお爺さん。大地主だった。  少しずつ手放して最後に残ったのが、あの古民家だそうだ。  今の息子は次男で、硬い勤め人になった。お爺さんと一緒に暮らしている。次男のお嫁さんと孫も同居している。  長男がいた。闘鶏が好きで、軍鶏(しゃも)を飼っていた。強い横綱級の軍鶏を数羽。  軍鶏は気が強い。非常に闘争心が強い。オス同士は縄張り意識が強く、一緒にすると死ぬまで戦い続ける。檻を分けるのは必然。  今では闘鶏は禁止され違法だが、その頃は隠れて飼育する者が多かった。  佐波一家に闘鶏に詳しい人がいた。顧問の満さん。 「昔はこの辺りでもやっていた。 今は禁止されてるんだよ。もう軍鶏を飼う人もいないな。いても食用だ。」  闘争心の強い軍鶏だ。極道はみんな自分の軍鶏を愛した。軍鶏ゲイという試合もあった。  勝ち負けは、鳴いたり、逃げ出したり、怪我をして倒れたり、で決まる。  20分ごとに1分の休憩が入る。この時間に飼い主は、自分の軍鶏に口移しで水を飲ませたり、血止めの薬を塗ったりして手当てをする。  勝った鶏は2週間ぐらい休ませ、ケガの手当てをして養生させる。  しかし、一度負けた鶏はもう2度と使えず、食べてしまうそうだ。  残虐な行為、闘鶏は犯罪だ。しかし、一昔前は、極道の金儲けの手段として人気だったから最近まで、秘密裏に行われていた。  お爺さんの長男は、そのギャンブル性にのめり込んで借金地獄に落ちた。  佐波一家は、博徒。ギャンブルを家業にしてはいたが、ほとんどが丁半博打、花札だった。そして麻雀に移る。闘鶏には手を染めなかった。  先代の組長が動物好きだったのだ。 「極道のくせにぬるいのぅ。 動物愛護だと?笑わせる。」 「なんと言われようと,動物虐待は御法度じゃ。」 「エンコ(小指)は詰めさせるのになぁ。 甘いお方や。」  肝の据わった親分だったが、動物には優しかった。ある時、まだ佐波大門が若頭のころ、出入りがあった。先代は床の間の、鬼神丸国重で、抗争中の相手方の助っ人を切った。スパーンと切られて腕が肩から飛んだ。 「人間は片腕がなくなると、まっすぐ走れないんだなぁ。」 感慨深げに語った。相手の若いもんが吹き出す血を抑えて病院へ連れて行った。  動物愛護とヤクザの出入りは、先代に取って 両立する事だったらしい。

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