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第67話 大地主

 大地主だったお爺さんは、長男可愛さに、ギャンブルの負けを肩代わりし続けた。  田んぼを無くし、畑を手放して、小作人に譲った。お爺さんが生まれ育った、先祖代々暮らした家だけは死守した。  サラリーマンの次男は、会社に近いところに家を買って暮らしていた。  遂に長男は賭博罪で逮捕され懲役に行った。もうこの家しか残っていない。  年老いたお婆さんが亡くなり、次男が一緒に住もう、と誘ってくれた。  長男は自ら命を絶った。一人古民家に残されたお爺さんは 「誰のせいでもない。みんな博打が悪い。」  闘鶏を主催して長男の身包み剥がしたのは、佐波一家ではなかったが、その時からお爺さんのヤクザ嫌いは始まった。 「みんな極道が悪いんじゃ。」  顧問の満さんの話を聞いて貴也は 「あのお爺さんからもう何も奪ってはいけないね。」 と言った。龍一が 「ああ、根が深そうだ。博打うちって何だよ。 汚いな。」  佐波一家は堅気相手に汚い事はしないが、つくづく家業に嫌気がさした。 「今はもう闘鶏とかやってないんでしょ。 人間って酷い事、たくさんして来たんだね。」  龍一が何か考え込んでいる。 「ウチの組は、今は水商売どっぷりって感じだね。賭博はやらないのか?」  闘鶏を焚き付けたのは中国系の半グレだった。 軍鶏は気が強い。中国人は戦わせる時、蹴爪に小さい刃物を括り付ける。そして死ぬまで戦わせる。血を見るのが好きなこの半グレは、エグい闘鶏を売りにしていた。   農家の庭に集まって、すごい熱気でみんな血を見たくて仕方ないようだ。生き物を殺す事に異様な興奮をする人種。軍鶏は気が強い。息の根を止めに来る。その残虐性に長男の可愛がっていた軍鶏は殺されてしまった。  中国人はそういうのが好きだ。法に触れるのもお構い無し。自分たちは 「ニホンノホウリツ、ヨクワカリマセン。」 で許されるらしい。  言葉もわからない、と言いながら、闘鶏の負けは情け容赦なく取り立てた。  昔のヤクザは触法には手を出さない。佐波一家は、真っ当に生きるのが漢(おとこ)だと信じている古いタイプの極道だった。  お爺さんの資産が身包み剥がされたのを知ると 若頭だった大門は悔しがった。  中国贔屓の弁護士が付いている。 「日本はそのうち、中国のものにナルヨ。」 土地を買い漁り、町はいずれ彼らに蹂躙される。 「町を守るのが極道だろうよ。」  もうすでに遅いのか。虫食いのように空き家が買われて壊されている。

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