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第72話 居酒屋

 繁華街の居酒屋に誘われた。 「俺、お邪魔じゃない?」 何で誘われたのかわからない。 「初めまして。恵(めぐみ)です。」 「ああ、初めまして。野田貴也です。 二人のデートにお邪魔してすみません。」 (なんで俺、謝ってんだ?) 「いいんだ、俺が誘ったんだよ。」 とおるが言った。勝手に注文している。  ドンッと生ビールのジョッキが3つ届いた。 俺に選ぶ権利は無いのか? 「とりあえず乾杯!」 恵さんはいい飲みっぷりだった。 「強そうだね、お酒。」 「貴也、飲もう飲もう! 飲まなきゃやってられないよ。」 意外な展開に驚く。  焼き鳥を串を抜いてほぐしたり、唐揚げにレモンをかけて取り分けてくれたり、気が利く娘だった。利きすぎかも。  とおるはハイボールに変えて無言で飲んでいる。 「なんでカフェで働いてんの? 店持ちたいとか?」 「とおるはあたしと結婚してカフェやるんだよね。」 「うるせえな。」 そう言えば店に来た時から、ずっととおるはムッとしている。 「何?夫婦喧嘩?俺、帰ろうか。」 「帰らないで。」 縋るような目で見てくる恵。 「どうした?話聞くよ。」 とおるの方を見て言った。 「長い付き合いなの?」 「うん、3年くらい。とおるが学生の時から。」 とおるは苦しそうに俺を見た。俺は首を傾げてとおるを見る。 「こいつ、浮気するんだ。」 「したんだ、じゃなくて、するんだ、ってどういう事?」 「試すんだよ。男の心を試すんだ。」 「それでも今まで、必ずとおるの所に帰ってきたじゃない。」 「それは、俺の方が良かったからだろう。 いろいろ条件が。」 俺は呆れて見ていた。 「で、今はとおるの元に戻って来たんだろ。 めでたしめでたし、じゃね?」 「ふざけんなよ。おまえだったら許せるのか?」 いつも二股三股かけられてると言う。  龍一がそんな事したら,俺? 一体どうするだろう。

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