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第78話 ほうじ茶

 叶うはずがない。あんなに綺麗な男。龍一は面食いだ。俺もまあまあイケてるとか思ってたんだ。だから龍一が愛してるって言った時も受け入れた。龍一もすごく綺麗な男で、学部でもモテまくってた。噂だけどね。硬派で硬い。誰とも浮気しない、奥さんが羨ましいって言われてた。  ジムでストイックに筋トレしている姿がセクシーだと、あんな身体に抱かれたいって、誰もが言っていた。男女問わずファンが多かった。  そう言えば似たような事を聞いた。あの詩音も男女問わずファンが多いって。  そんな男が俺を探して、見つけ出してくれた。あの時,俺は有頂天だった。当たり前に龍一に抱かれた。一緒に温泉なんかに行って。  甘酸っぱい思い出だ。思い出? まだ思い出になんかしたくない。  激しく愛し合って眠る。目覚めると腕に抱き締めてくれる。 (もっと大切にすればよかった。あの濃密な時間。確かにあの時、この手が届いていたのに。 会いたいよ、龍一。)  珈琲を淹れるのが上手くなった。マスターに褒められた。 「マスター、ほうじ茶なんかメニューに入れませんか?」 奥さんが 「いいわねぇ。日本茶。抹茶もいいわ。 盆略手前で、こだわった和菓子と一緒に。」 「抹茶もいいけど、カジュアルなほうじ茶ってのもいいなぁ。」  マスターも賛成してくれた。奥さんの抹茶のアイデアもいい。  休憩時間に近所の和菓子屋を覗いてみた。甘い和菓子と、塩っぱいあられ、なんかどうだろう。  奥さんが以前から趣味で集めていた茶器を持って来てくれた。 「いいねぇ、この備前。焼き〆がいい味だ。」 俺も土っぽいのが好きだ。  龍一に淹れてあげたい。 (いつも龍一の事が頭から離れない。)

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