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第88話 出会ってしまった
貴也は、なし崩し的に龍一とまたヨリが戻った。
でも、今回は気持ちが揺れる。
好きな人に抱かれる喜びは、ない。もう心から信じる事はないのだろう。
龍一も違和感を拭えない。このまま、ダメになるのか。それは嫌だ。壊したくは、ない。
二人ともそう思っている。それでもあの頃のようには心が通わない。
『暖家』にシオンが現れた。ユーツーを連れている。世間を騒がす超美形が二人。
店にいた常連客がざわつく。
「すごい!シオンとユーツー、並べて見られるなんて。」
みんなが一斉にスマホを向けた。
「撮影しないで。」
マスターが気にしてくれる。
「ダメだよ。勝手に撮影してはいけない。」
女子高生たちは素直にスマホをしまった。
「いいですよ。有名税だ。
お店にご迷惑かけないようにしなくちゃ。」
今日のシオンはまともだ。龍一がいると限りなくわがままになるらしい。
そんなことも、もう気にならない。
「いらっしゃいませ。」
「うん、今日は貴也に会いに来たの。
紹介するね。ユーツーだよ。知ってるでしょ。」
握手の手を出された。慣れない握手なんかしてしまう。ユーツーは海外を拠点にしていたから、握手もスマートだ。
思わず見惚れてしまった。シオンより一層線が細い。儚げな印象だ。
俺に会いに来たって?
「何で、俺?」
「クロードが日本人探してる。一般的な、よくいる日本人。」
それが俺? なんだか失礼だ。十人並みだと言われてるのか?
「今度のデザインのコンセプトは、ザ日本人、なんだって。何処にでもいるような。
でもまあまあ整ってなくちゃいけないんだ。
そんなに若くてもダメ。
僕、貴也がひったりだと思ったんだ。」
(テメェ、けんか売ってんのか?)
「今度、クロードと一緒にくるよ。」
微笑みながら見ているユーツーが気になって、怒る気もしない。
「詩音、口の聞き方を誰かに教わった方がいいな。おまえ、友達いないだろう。」
「貴也も、ね。」
(こいつ中々気が強い。)
「龍一に会わないの?」
「だって僕、人のもの取ったらいけないって習ったから。」
(この野郎!)
「きょうは,貴也にユーツーを紹介しようと思って来たんだ。
車、待たせてるから、今日は帰るね。」
外に運転手付きのレクサスが停まってた。
二千万超えの高いやつ。なんかムカつく。
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