88 / 179

第88話 出会ってしまった

 貴也は、なし崩し的に龍一とまたヨリが戻った。 でも、今回は気持ちが揺れる。  好きな人に抱かれる喜びは、ない。もう心から信じる事はないのだろう。  龍一も違和感を拭えない。このまま、ダメになるのか。それは嫌だ。壊したくは、ない。  二人ともそう思っている。それでもあの頃のようには心が通わない。 『暖家』にシオンが現れた。ユーツーを連れている。世間を騒がす超美形が二人。  店にいた常連客がざわつく。 「すごい!シオンとユーツー、並べて見られるなんて。」 みんなが一斉にスマホを向けた。 「撮影しないで。」 マスターが気にしてくれる。 「ダメだよ。勝手に撮影してはいけない。」 女子高生たちは素直にスマホをしまった。 「いいですよ。有名税だ。 お店にご迷惑かけないようにしなくちゃ。」  今日のシオンはまともだ。龍一がいると限りなくわがままになるらしい。  そんなことも、もう気にならない。 「いらっしゃいませ。」 「うん、今日は貴也に会いに来たの。 紹介するね。ユーツーだよ。知ってるでしょ。」  握手の手を出された。慣れない握手なんかしてしまう。ユーツーは海外を拠点にしていたから、握手もスマートだ。  思わず見惚れてしまった。シオンより一層線が細い。儚げな印象だ。  俺に会いに来たって? 「何で、俺?」 「クロードが日本人探してる。一般的な、よくいる日本人。」  それが俺? なんだか失礼だ。十人並みだと言われてるのか? 「今度のデザインのコンセプトは、ザ日本人、なんだって。何処にでもいるような。  でもまあまあ整ってなくちゃいけないんだ。 そんなに若くてもダメ。 僕、貴也がひったりだと思ったんだ。」 (テメェ、けんか売ってんのか?) 「今度、クロードと一緒にくるよ。」 微笑みながら見ているユーツーが気になって、怒る気もしない。 「詩音、口の聞き方を誰かに教わった方がいいな。おまえ、友達いないだろう。」 「貴也も、ね。」 (こいつ中々気が強い。) 「龍一に会わないの?」 「だって僕、人のもの取ったらいけないって習ったから。」 (この野郎!) 「きょうは,貴也にユーツーを紹介しようと思って来たんだ。 車、待たせてるから、今日は帰るね。」  外に運転手付きのレクサスが停まってた。 二千万超えの高いやつ。なんかムカつく。

ともだちにシェアしよう!